最終年度は、これまで同様『郵便報知新聞』掲載の思軒作品の原著調査を、海外の主要図書館にて実施した。前年度同様、海外における調査の視野を広くもつため、イギリスを中心とした欧米の新聞研究および定期刊行物研究に関する国内外の著書・論文等を、継続して収集することを行なった。 調査については、本年度もイギリス・大英図書館にて主な調査を行なった。これまでの調査において、思軒が英米の当時著名な作家の文学作品を翻訳すると同時に、多くの海外諸新聞に掲載された無署名の記事を翻訳し小説として紹介していたことを明らかにしたが、最終年度は原著が判明したそれら13 作を中心に、さらにどのような国・地域やメディアにおける広がりが認められるかを、個々の作品ごとに測定する作業を行なった。結果、19世紀後半から末にかけて形成された大英帝国の新聞・雑誌ネットワークの存在が想定できるようになり、それらのなかに『郵便報知新聞』の森田思軒による新聞小説群を位置付けることができるという確証を持つことができた。こうした具体的な背景が判明したことにより、記事内容に関して、19世紀イギリスとさらにフランスとの文学的・文化的交流も視野に入れる必要が生じたため、今回、新たにフランス・国立図書館での調査を加えて実施した。また、これまでの調査方法によって、思軒と同時代の他の作家たちの原著不明分を明らかにすることが可能になるという予測が立てられるようになり、日本近代における新聞と文学が人文知形成に果たした役割を解明する基礎調査を十全に拡大することができた。 またイギリスにおける定期刊行物調査の過程において、夏目漱石とイギリスの哲学・心理学との関係に関する発見をし、明治期の人文知形成の一例として論文化した。
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