本研究「明治に出版された渡米の手引書に関する研究」は、明治期の「渡米の手引書」ブームが契機となって米国に留学を果たした若者(特に私費留学生)の出身階層と背景を明らかにし、さらに当時の社会が求めた「海外雄飛する青年像」を考察するという目的で実施された。研究期間中、国内外において、「渡米の手引書」関連の刊行物や、公費・私費留学生に関する資料の収集をすることができた。具体的には、国立国会図書館に保管されている「渡米」関連の刊行物を網羅的に調べ、また、アメリカのニュージャージー州にあるラトガース大学を訪問し、そこに保管されている、明治から大正にかけての日本人留学生の在籍者名簿、また日本人留学生に関するその他の資料を得ることができた。 ラトガース大学は、最も早い時期から日本人留学生を受け入れてきた大学だが、私費留学生が入学するのは困難であった。というのは、西海岸よりも季節就労のチャンスが少なく、学資を貯めるのが難しかったからである。しかしながら、渡米の手引書には、東海岸の大学を目指すことを勧めるものもあるため、私費留学生が東海岸の大学で学問を修めることが可能であったか否かをラトガース大学で調査した。そして、ラトガース大学の資料と日本における資料を比較・分析した結果、「力行会」のメンバーが存在していたことが確認できた。「力行会」は、資力のない若者に苦学を勧め、渡米を指南しており、渡米ブームの大きな牽引力となっていた団体である。このことから、「苦学」、「渡米」、「成功」を呼びかけられた若く貧しい労働者たちが、実際に「渡米の手引書」に導かれて行動を起こし、東海岸の大学で学問を修めていたことが確認された。また、副次的な成果として、「明治から大正期にかけての海外渡航者リスト」の空白部分の一部をラトガース大学関係者で埋めることができた。
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