研究課題/領域番号 |
25580063
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 常磐大学 |
研究代表者 |
外山 健二 常磐大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80613025)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アメリカ文学史 / イスラーム / 文学史 / 正典 |
研究概要 |
平成25年11月に「チュニジア―日本 文化・科学・技術会議」(TJASSST2013)において、「アメリカ文学史のイスラーム――第一次報告」を行った。その研究発表の要旨(英語)はBook of Abstracts (The 12th Tunisia-Japan Symposium on Society, Science and Technology, TJASSST2013)に、発表論文(英語)はBook of Proceedings (TJASSST2013)に掲載されている。 この発表では、主に正典化の作品がどのように語られているかを追究した。歴的特殊性と「イスラーム」によって不/可視化される問題は何かを念頭に、第一次報告となる。SpillerのLiterary History of the United States (1948)では、Royall TylerはThe Contrast(1787)で成功したアメリカの劇作家である。タイラーのThe Algerine Captive(1797)は、Elliotの Columbia Literary History of the United States (1988)で取り上げられる。ここでは、主人公のアップダイクが、アルジェリアの捕虜になる冒険物語で、当時のアルジェリアの海賊行為とアメリカ人捕虜は重大な問題でありながら、イスラームが好意的に記述される。Bercovitchの Cambridge History of American Literature(1986-2004)では、この作品はアルジェリアの慣習や歴史が記述され教育的小説である。タイラーのこのような記述は愛国主義となり、それは歴史の動きに共鳴する。白人捕虜という奴隷問題は、Harriet Beecher Stoweら南北戦争以前の作家に影響を与え、奴隷制廃止の動きとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ文学史を問う上で、例えば、文学教育制度の問題がある。1930年代から1940年代にかけて、アメリカ独自の文学教育制度が確立していく。南部ルネッサンスの一環として新批評が勃興し、精読の伝統が再認識される。またピューリタリズムとナショナリズムが融合していく。このような過程で、1941年のMatthiessenのAmerican Renaissanceにおいても北部白人男性作家を分析対象とした。 1948年にはスピラーの文学史である。 だが、例えば、「アメリカ文学史」が、いつ生まれたのか、という問いである。Howard JonesのThe Theory of American Literaure(1948)によれば、1860年代から20世紀初頭にかけて、アメリカ人によるアメリカ文学史が生まれた。南北戦争が終結し、国民としての自信が高まり、アメリカの歴史学者がアメリカ文学史を書き始めた。このような問いのなか、Mosses Tyler, A History of American Literature, 1607-1765 (1878)やEdward Eggleston, The Transit of Civilization from England to America in the Seventeenth Century (1900)等を見れば、アメリカ文学教育史のなかでのアメリカや文学を理解できる。バーコヴィッチの文学史におけるポーロ・モンローによる教育に関するエッセイ等も分析対象となる。 「アメリカとイスラーム」等に関する研究が十分に開拓されず、「アメリカ文学史のイスラーム」の確立を目指す途次であり、計画以上に研究が十分達成するよう努力したい。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、「現在までの達成度」でも触れた、アメリカ文学史の歴史的過程を踏まえ、19世紀から20世紀にかけて著述された、アメリカ文学史のイスラーム表象を引き続き追究する。Fred Lewis Pattee, A History of American Literature (1896)等を手始めに検証するが、19世紀における<アメリカ文学史>の萌芽期を意識し、アメリカ文学史におけるイスラーム表象を問う。Herman MelvilleやMark Twainの<オリエントとイスラーム>、Ernest Hemingwayの<アフリカとイスラーム>、John Dos PassosやJames Baldwinの<イスラーム>等が対象となる。 第二に、正典形成で問題視される白人男性中心主義等の権威や、国家主義等から反映される文学的価値を検証する。これを通じてイスラームが排除され、あるいは表象されるプロセスを追究する。そのためには、新批評からポストコロニアル批評やカルチュラル・スタディーズへといった批評理論をもとに、作家や作品群を<特権化>するアメリカの複雑な社会や政治的プロセスを追究する。この過程で、正典形成の際に<特権化>されるイスラーム的文学の価値を追究する。 第三に、以上の成果を踏まえアメリカ文学史の<書き換え>に迫りたい。上記の二点から、それぞれの時代に書かれた<アメリカ文学史>にみられるイスラームの欠如や排除、さらにはイスラーム表象に対して価値の与え方に注目する。各時代の<アメリカ文学史>に表れたイスラームへの価値観を再整理し、その体系を明示したい。そうすることで、それぞれのイスラームへのアプローチに存在する価値観の差異から、どのような<アメリカ文学史>が見えてくるのか、あるいはその差異を現代の視点から眺めたとき、どのように<アメリカ文学史>を<書き換え>可能なのか、考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、主に文献購入を予定していたが、作品の全集やアメリカ文学史に関する文献のうち、次年度使用額(12,155円)に値する文献をあえて平成25年度に購入するよりも、高額な文献も多いため、翌年度分として、使用計画に入れることで、文献の充実化を図ることができると考えたため。 物品費のうち文献購入として使用計画を予定している。最新のアメリカ文学史研究を踏まえたアメリカ文学史関連の文献や、これまで不十分な研究分野である「アメリカとイスラーム」に関連する貴重な文献等を平成26年度分の物品費と合わせて購入を計画している。
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