研究課題/領域番号 |
25580063
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研究機関 | 常磐大学 |
研究代表者 |
外山 健二 常磐大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80613025)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アメリカ文学史 / イスラーム / 文学史 / 正典 |
研究実績の概要 |
平成26年11月に、日本アメリカ文学会第53回全国大会において「アメリカ文学史のイスラーム――第三次報告」を行った。第一に、アメリカ文学史はいつ誕生したのか。アメリカ文学史の誕生から現在のアメリカ文学を辿ることで、「カノン」(正典)の諸問題を追究し、アメリカ文学での「古典」の在り方、カノンが形成された時期の諸作品の受容の在り方などが分析対象となり、カノン形成の視点から追究することで、カノン形成に含まれる権威、国家主義、文学的価値等を検証し、イスラームが看過されてきた諸要素を追究している。 第二に、以上の作者や作品群を特権化するアメリカの複雑な社会・政治的プロセスを追求する過程において、アメリカ文学史の歴史的過程を踏まえた。Fred Lewis Pattee, A History of American Literature(1896)等からアメリカ文学史の検証追究を始め、19世紀における〈アメリカ文学史〉の調査・検証の成果を提示する試みをしている。その過程で、アメリカ文学史におけるイスラームの不透明性や問題点を指摘し、諸作品に対するイスラームの視点から作品解釈を行った。例えば、Royall Tyler, Herman Melville, Mark Twain, Ernest Hemingway, Jon Dos Passos, James Baldwinらの作品群である。 第三に、カノン化に生じる制度的、教育的「価値」に焦点をあてた。これまで、文学研究は、ある特定のテクストとそれに関連する歴史的文脈という枠組みのなかで、諸作品を解釈することを特徴とした側面がある。文学史が個々の作品から成立する文学の歴史であることからも、それら作品群のイスラームの視点による再解釈によって、個々の作品研究と、作品群によって成立する文学史に見られる何らかの差異を追究している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ文学史の起源や成立過程の調査・研究がある。Howard Mumford JonesのThe Theory of American literature(1948)によれば、19世紀中期に、ヨーロッパ人によるアメリカ文学史が生まれた。パリで出版された、Eugene A. VailのDe La literarature et des homes de lettres des Etas unis d’Amerique (1841)のイントロダクションに"literature is the perfume of a nation”とある。1851年には、Etudes sur la literature et les moeurs des Anglo-Americains au XIX Siereの出版である。ドイツでも1868年にアメリカ文学史が出版される。 次に、各作品研究のイスラーム表象では、例えば、メルヴィルの短編「私と私の煙突」(1856年)で、煙突に繋がる暖炉の上のスリッパをスルタンの現前と見ることで、語り手はそれを権威と見なし、家庭内の自負心・自尊心を構築する。いわば、煙突が家の中央で権力の象徴となるように、家庭内の中心となる場所にスルタンのスリッパを置くことが文字通りの中心的自己の確立に連動している。 さらに、例えば、エドガー・アラン・ポーの小説『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの体験記』(1838年)では、彼の中東への関心が読み取れる。19世紀アメリカの中東への眼差しとして、文学史的観点からすれば、エジプト学、聖地への魅力、それらに伴う旅行、帝国主義や植民地主義等の要因を追究している。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカ文学史そのものの起源や成立事情、さらにはアメリカ文学史の歴史や今後の展開等、正典研究と同時に、さらなる調査・研究が必要である。同時にアメリカ文学の各作品のさらなるイスラーム表象追究が課題である。 アメリカ文学史で、例えば、初版Norton’s American Tradition in Literature (1951)は、1979年版に、The Norton Anthology of American Literatureという標題に代わる。しかし、このほぼ5000頁にわたるアンソロジーを見渡しても、ヒスパニック系、アジア系アメリカ人、ネイティブ・アメリカ人の作家は看過されている。イスラームへの配慮は全く欠如されている。このような方向で、アメリカ文学史の検証のさらなる精密さを追究する必要がある。 正典研究では、テクストはどのようにして文学的、社会的、政治的地位をえるのか、権力と結びつくのか、そしてそうした権威はどのように用いられるのか、という諸問題へのアプローチである。 文学史研究では、帝国主義や植民地主義による支配に代わる世界秩序(あるいは無秩序)のイスラーム的視点から現代的形態に関する研究を視野に入れる必要が生じるだろう。 アメリカ文学作品研究では、エドガー・アラン・ポーやマーク・トウェインなどに見られる〈アメリカのナイル〉などアメリカからのエジプトなど、イスラーム表象をさらに追究することになる。 総じて、アメリカ文学史のイスラームにおいて、アメリカ文学史という枠組みの単なる再構成ではなく、これまでの研究領域を超えた新しい知の枠組みを提示できるよう研究を推進したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画調書作成時には、平成26年度に開催予定と考えられた、「第三回アルジェリア・日本学術シンポジウム」(アルジェリアで開催)が開催されなかった。アルジェリア側との調整等諸般の事情が考えられ、平成27年度以降開催される見込みであるが、当初予定の直接経費の旅費(平成26年度)を十分に使用することができなかった。 平成26年度に各学会等への新たな研究発表の申し込み等を検討したが、研究発表申し込み締め切り等を鑑み、平成27年度に新たな研究発表等を計画することを勘案したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度には、新たに、平成27年5月に日本中東学会第31回年次大会(同志社大学・京都府)、7月に多民族研究学会第24回全国大会(予定)、11月に日本英文学会東北支部・第70回大会(宮城学院女子大学)(予定)において、研究発表を計画している。直接経費の旅費等を含め、適切に使用できるよう努力したい。
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