本研究の目的の一つに、イスラームの視点でアメリカ文学諸作品に対し解釈を試み、アメリカ文学史を再構築する狙いがある。 まず、『アメリカ文学史』の比較検討である。スピラー編『アメリカ文学史』(1949年)では、タイラー『好対照』が特権化され、イスラーム記述は欠如している。エリオット編『コロンビア・アメリカ文学史』(1988年)では、タイラー『アルジェリアの捕囚』のイスラーム記述を散見する。文学史再構築を図る、バーコビッチ編『ケンブリッジ・アメリカ文学史』(2005年)では、タイラーに係るアルジェリアの慣習等の記述がある。バーコビッチ以前の文学史では『アルジェリアの捕囚』以外、イスラーム記述はほぼ皆無である。 バーコビッチ文学史を継承する、ラウター編『アメリカ文学ヒースアンソロジー』(2010年)は、9.11以後のセクションで、テロに係る作品がテロを脅威として記述され、イスラームは宗教的他者となる。9.11以後のアメリカ文学史では、テロとの係りでイスラームが記述されるが、イスラームの多面性等を記述する視点は不足している。 以上を踏まえ、本研究では、例えば、次のようなイスラームの視点で作品解釈を試みた。アメリカ文学史では1607年のジョン・スミスらによる南部ヴァージニアの植民地開拓に起源を求めるのが定説であるが、現在のマサチューセツ州ロックポートのアン岬はトラガビグザンダと名付けられた。これはスミスのイスラーム経験の表象であることを文学史で扱うことは少ない。ましてや、スミスを擁護したムスリム(イスラーム教徒)を主軸にした作品解釈は文学史上存在しないと言えるだろう。アメリカ文学諸作品を網羅的にイスラームの視点で分析し、アメリカ文学史を生み出す内的な土壌を検証しつつ、文学史再構築という研究課題を、平成28年度採択の研究課題「アメリカ文学とイスラーム」(挑戦的萌芽研究)で追究予定である。
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