研究課題/領域番号 |
25580064
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
福田 敬子 青山学院大学, 文学部, 教授 (80276005)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヘンリー・ジェイムズ / ジェイムズ・マクニール・ホイッスラー / ジョン・シンガー・サージェント / ロンドン / ジェントルマンズ・クラブ / 岡倉天心 / 国籍離脱者 |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究実施状況報告書(平成27年5月提出)で述べたように、平成27年度はヨーロッパ方面の調査、特に、本科研費の課題対象であるアメリカ人小説家ヘンリー・ジェイムズ(Henry James)と友人のイザベラ・スチュアート・ガードナー(Isabella Stewart Gardner)が好んで滞在したロンドンとヴェネツィアのアメリカ人サークルについての調査を行う計画だった。この調査は科研費申請時には26年度に執行する予定だったが、26年度には19世紀末のボストンで活躍した日本人美術商、松木文恭に関する調査を優先する事情が生じたため、調査の順番を入れ替え、27年度に繰り越すことになったものである。 イギリス方面については、平成27年8月下旬~9月上旬にかけて、グラスゴーのグラスゴー大学図書館とロンドンの大英図書館で資料調査を行った。前者に赴いた目的は、ジェイムズ同様に「国籍離脱者(expatriate)」と呼ばれたアメリカ人画家のホイッスラー(James McNeill Whistler)関連の資料を集めることであった。 また、後者に赴いたのは、ジェイムズが所属していたジェントルマンズ・クラブについての資料調査を行うためだった。ジェイムズ没後100年を記念した論文集『ヘンリー・ジェイムズ、いま――没後百年記念論集』に論文を寄稿した際、ジェイムズが岡倉天心と「リフォーム・クラブ(Reform Club)」で食事を共にしていることがわかり、より詳しくジェントルマンズ・クラブの状況を知る必要が生じたからである。 上記の調査の結果、この問題はジェイムズやホイッスラーだけでなく、もう一人の「国籍離脱者」でアメリカ人画家のサージェント(John Singer Sargent)にも関連することがわかったため、平成28年のアメリカ学会年次大会で研究成果を発表をすることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究状況は、やや遅れている。その原因は、高齢の両親が急に介護を必要とする状態になり、平成27年度中に予定通りの研究活動をすべて行うのは厳しくなったためである。特に、長年の懸案だったイタリア出張による資料収集は断念せざるをえない状況となった。その結果、研究期間の一年延長を申請し、平成27年度にできなかったイタリア方面の調査を平成28年度に行うことになった。 その一方で、上記の「研究実績の概要」にあるように、平成27年8月末~9月上旬のイギリスにおける資料収集は予定通り行うことができ、その成果として、研究論文「見えない越境――ヘンリー・ジェイムズと日本を結ぶ点と線」(『ヘンリー・ジェイムズ、いま――没後百年記念論集』、英宝社、2016年6月出版予定)を執筆した。これは、科研費申請の研究課題である「ヘンリー・ジェイムズと日本」に直接つながる、ジェイムズと日本の関係を分析した論文である。 また、アメリカ学会第50回年次大会での研究発表「アメリカ人芸術家のロンドン・クラブライフ:ヘンリー・ジェイムズを中心に」(平成28年6月4日、熊本県立大学にて開催予定だったが、震災のため東京女子大学に会場変更)の素地を作ることができた。さらには、この研究発表を元にして、平成28年度中にもうひとつの論文集に寄稿する計画が具体化した。 このような状況から、イタリアでの調査はできなかったものの、その他の面では一定の成果をあげたと断言できる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の「現在までの達成度」に記入したように、両親の介護の必要が生じ、調査研究の一部の執行を延期せざるを得なくなったため、研究期間を一年延長することになった。そのような事情から、平成28年度は、27年度に執行する予定だったヨーロッパ方面、特にイタリアの調査を中心に行っていきたいと考えている。 結果的に最終年度となった28年度は、26年度の報告書(27年度5月に提出)にもあるように、ジェイムズとガードナーの関係、および二人とニューヨーク、ボストンの関係についての調査を続けると同時に、二人とヨーロッパの関係も調べていく。特に、ジェイムズが暮らしたイギリスのロンドンと、ジェイムズとガードナーを含む多くのアメリカ文化人が集まったイタリア・ヴェネツィアのアメリカ人サークルの実態について調べたいと考えている。そこには、27年度中にかなり研究を進めることができたホイッスラー、サージェントの存在も関わってくることになろう。 同時に、科研費初年度から調査を続けている岡倉天心、松木文恭ら日本人と、日清・日露戦争時のボストン社会との関連も引き続き調べていく予定である。 また、友人の多くが日本に夢中だった時代に、なぜジェイムズがヨーロッパにばかり目線を向け、日本にあまり関心を抱かなかったか(あるいは、日本に関心があったとしたら、なぜあえて作品にはその関心をあまり表現しなかったか)を明らかにしたい。 最終的には、当初の目標通り、ヘンリー・ジェイムズ研究を中心にすえながら、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのボストン周辺のアメリカの文化人と、日本-イタリアをつなぐそれぞれの自己探求のありかたを明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
高齢の両親が急に介護を必要とする状態になり、平成27年度中に予定通りの研究活動をすべて行うのは厳しくなった。特に、長年の懸案だったイタリア出張による資料収集は断念せざるをえない状況となったため、イタリア出張のために使う予定だった経費124,028円が残る形となった。
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次年度使用額の使用計画 |
両親の介護の必要性が生じた結果、平成27年度中に予定していた研究活動を完了することができなかったため、研究期間を一年延長することになった。124,028円のうち、およそ3万円は書籍など物品費にあて、残りはイタリア出張のための旅費にあてる予定である。
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