平成28年度は、27年度に予定してたものの両親の介護問題のために延期せざるを得なくなったイタリア方面の資料収集を中心に行った。ヴェネツィアでは、ガードナー(Isabella Stewart Gardner)が借り、ジェイムズ(Henry James)を含む多くのアメリカの文化人が集まったパラッツォ・バルバロ(Palazzo Barbaro)を訪れたほか、ジェイムズのイタリア紀行文『郷愁のイタリア(Italian Hours)』(1909)に描かれた地域、街並み、教会などの建築物、芸術作品を実際に見ることで、アメリカ人がイタリアのどの部分に魅かれていたのかを理解するヒントを得た。また、ジェイムズの友人で、ヴェネツィアで自ら命を絶ったアメリカ人女性作家ウルソン(Constance Fenimore Woolson)についても、新たな研究テーマとするきっかけをつかんだ。 さらに、ジェイムズとウルソンが滞在したフィレンツェのアパートは、かつてイギリス系女性作家のブラグデン(Isa Bragden)が住み、ブラウニング夫妻(Robert Browning、Elizabeth Browning)などイギリス人作家のたまり場になっていたことがわかり、イタリアという場所が、アメリカ人だけでなくイギリス人作家にとっても非常に重要な意味を持っていたことが判明したたため、今後の研究課題として発展させていきたい。 28年度の研究業績は、27年度の報告書(28年5月提出)に前倒しで記載した通りである。そのうちの一つである学会発表「アメリカ人芸術家のロンドン・クラブライフ:ヘンリー・ジェイムズを中心に」(アメリカ学会第50回年次大会、於東京女子大学)をもとにした研究論文が、29年度中に音羽書房鶴見書店より発行される論文集に掲載される予定である。
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