研究課題/領域番号 |
25580066
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
松本 和子 東京理科大学, 工学部, 教授 (90385542)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 英文学 |
研究概要 |
本研究の目的は、帝国主義のイデオロギーを強烈に投影したキプリングの著作における男性登場人物のマスキュリニティの弱体化に着目し、時代があるべき姿として確立した男性像とは異なるどころか対極にあるとさえ言っても差支えない彼らをキプリングが繰り返し描いた背景とその理由を考察することにある。考察する際には、伝記資料が示唆する通りに自己韜晦に満ちた作家自身の内面と時代思潮の両面からの探求を実践し、解明に結びつける努力をする。 提出済みの計画書に即し、キプリングの小説に登場するマスキュリニティが弱体化した男性群の系譜作りから着手し研究を推進していったが、その過程で平成26年度に重点的に行う予定のコンラッドとの基礎的な比較検討作業が必要なことが判明した。慎重に考慮した末、計画に若干の修正を施した上でかなり綿密に実施した同比較検討作業を平成25年度の主たる研究実績として残すことにした。この研究は系譜作成上、読み解くことが不可欠であるにもかかわらず隠蔽されているためにアプローチが難しい女性登場人物と男性登場人物との相関関係を、両者のダイアローグを糸口に解き明かす可能性を提示することに意義ならびに重要性が見出せる。 具体的にはコンラッドの短編『帰宅』を中心的題材に据えて研究を展開した。同作品は家庭劇の体裁をとっており、ブルジョア階級に属する一組の夫婦に物語の焦点があてられている。何一つ不自由なく生活している紳士然とした主人公は、平穏無事な家庭生活が送られている間はマスキュリニティを特に感じさせる点はなかった。しかし、妻の駆け落ちを機にマスキュリニティが歪んだ形、つまり暴力的行為と同義の荒々しい行為として表出し、さらには駆け落ち未遂で戻ってきた妻との緊迫したやり取りの過程で、抑圧が解け狂暴化して現れたマスキュリニティが、徐々に勢いを落とし、混乱を経て脆弱さを露呈する。その時々刻々の変化を追った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記【研究実績の報告】で記したが、次年度扱いで支障がないと判断したコンラッドおよびコンラッドの著作との比較検討作業が平成25年度に完成を予定していた系譜作りに深くかかわっていることが理解されたため、スケジュールの修正を施して比較検討作業に時間と労力を割かざるを得なかったことが、多少の遅れを生んだ原因と考える。ただし、キプリング作品を常に引き合いに出す形で研究を進めていたので、キプリング研究と距離をおいたわけではまったくない。じゅうぶん取り戻せる程度の遅れということで報告する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策として重要視しているのは、①昨年度生じた遅れを取り戻す、 ②系譜作りに向けてキプリングの著作を徹底的に読み込む、③帝国衰退期の帝国主義イデオロギーがキプリングの描く男性登場人物(=マスキュリニティが弱体化した人物)に与えた影響/キプリングの描く男性登場人物(=マスキュリニティが弱体化した人物)が帝国衰退期の帝国主義イデオロギーに与えた影響に関する考察を深め、「キプリングの事例にみる帝国衰退期英国小説におけるマスキュリニティの弱体化」を課題に掲げた本研究のまとめを行う の三点である。 ①については遅れの原因が明確であり、現時点でその原因が取り除かれている以上、効率よい研究を実践することによってトラブルは回避できると考える。②については、平成25年度以来の継続作業となる。著作が多い上に難解な側面が強く、難航する場合も想定されるが、系譜作りを成果として出せるように心がけて推進する。③についてはこれまでに得た知見を総動員し、キプリングおよびマスキュリニティを逸した男性登場人物を時代のコンテクストに戻し、周辺作家への目配りも心がけて研究の総括を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金が生じた状況としては、①購入を予定した書籍(主としてマスキュリニティ関係の研究書 例:The New Man, Masculinity and Marriage in the Victorian Novel, Contemporary Masculinities:Film, Fiction, and Television 他)の刊行が予想に反して大幅に遅れたことと、②刊行の遅れがほぼ確実になった時点で資料収集のために渡英を企画したが責任のある学務と重なってしまい断念せざるを得なかったことの二点があげられる。 26年度は上記研究書類の購入と当初から予定した時代思潮に関する論考の購入に予算の大半を使用する予定。出張については学会とワークショップへの積極的参加を心がけ、知見を広めることで自らの論文に活かしていきたい。物品費については前年度にパソコンの新規購入を済ませているので大口の支出はないと考えられる。
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