研究課題/領域番号 |
25580068
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 静岡産業大学 |
研究代表者 |
田中 慶子 静岡産業大学, 情報学部, 准教授 (40249248)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 少女文化 / 読書 / 教育 / 翻訳 / 1950年代 / アメリカ文化 |
研究概要 |
秋元ジュニアシリーズを主とした古本を古本屋、オークション等で約150冊収集し、戦後の少女小説の出版事情について調べた。 三笠書房社長竹内道之助が洋画の原作の翻訳を出版していたが、「風と共に去りぬ」でベストセラーになり、仏映画のロードショーの「うたかたの恋」「ぼくの伯父さん」、独映画の「制服の処女」、米映画の「若きアリアーヌ」「緑の館」「メイム叔母さん」などが少女向けの「若草文庫」シリーズとなった。村岡花子は戦前からアメリカのオルコットやポーターなどの少女小説を翻訳しており、「若草文庫」として『赤毛のアン』を初の邦訳で、続編も出したが、ほぼ同時に新潮文庫からも廉価版が出ていた。三笠書房常務営業部長だった秋元一仁が独立して秋元書房を起業し、「若草文庫」と同じ体裁で1959年から主に戦後のアメリカの少女小説、ヨーロッパの映画化作品を月2回刊行した。秋元書房の「友の会」ではアメリカの生の作者情報が掲載され、ファンレターが奨励され、村岡花子の講演会、映画配給会社とタイアップした映画試写会、化粧品会社によるメイクアップ講習会などのイベント、村岡花子、大久保康雄が審査員となった懸賞読書感想文コンクールが随時開催されて、友の会の支部長の名乗りをあげる読者や、読者参加のAFS留学体験報告会、文通希望のコーナーもあり1960年前後国内での読者のネットワークが形成され、海外を志向する少女文化の大きな担い手となっていた。ジュニアシリーズのラインアップは、翻訳者だった内村直也をはじめとする日本人の作家が書き手となり、日本独自の学園物の「美しい十代」「女学生の友」などの雑誌に連載された作品が刊行され、東宝や日活で映画化もされ、海外渡航の自由化の1964年ごろから読者の人気も日本人作家が主流となっていった。1973年文庫化され、その役割は雑誌や集英社コバルトブックスに引き継がれ、読者の外向き志向は勢いをなくした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
赤毛のアン記念館・村岡花子文庫は2014年のNHKドラマ「花子とアン」放映に伴う企画のために2年間休館となり、利用ができなくなった。だが今後、TV放映にちなんで関連本が多く出版され、これまで明らかにされなかった村岡花子の人間像に迫る資料が入手しやすくなるので期待したい。 1950年代の人気作家のアメリカ少女小説の原書は絶版となり、一部の懐古趣味のマニアによってアンティークとなり、オークション価格も高騰し、入手が困難になっているのは日本と同様である。 モンゴメリの作品はカナダのプリンスエドワード島が舞台であるが、もともと植民地であったスコットランド移民の背負う文化を理解していないと難解である(『赤毛のアン』が人口に膾炙したのは比較的そのようなスコットランド色が濃くない為と思われる)。
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今後の研究の推進方策 |
海外でも研究成果を出せるように、テーマに普遍性を持たせるべく、海外の少女文化の研究書で取りあげられた視点を扱う。学園小説では日本の作品は受験生活が中心であるが、アメリカでは学期が夏前に終了するため、夏という時期が大きく少女の成長に関わる。サマー・キャンプ、プロム、ベビー・シッターなどのアルバイトなど日本ではなかったイベントがどのように少女の成長に作用していたのかについても考察していきたい。 常盤新平の自伝的小説『遠いアメリカ』に描かれたような異文化翻訳の苦労、戦後日本の若者の集団的なアメリカに対する憧憬の意識を同時代の記録からも探っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
資料となる書籍の刊行の遅延のため。 次年度に発売され次第、購入する。
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