研究課題/領域番号 |
25580068
|
研究機関 | 静岡産業大学 |
研究代表者 |
田中 慶子 静岡産業大学, 情報学部, 准教授 (40249248)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 1950年代 / 白人中心 / 理想化 / 女子の進路 / シリーズ / 学園生活 / 母親 |
研究実績の概要 |
アメリカ家庭小説の主人公はしばしば孤児であり、親の抑圧が普通の娘より少ない。赤毛のアン.少女ポリアンナ、少女レベッカ、あしながおじさんがこの例であり、いずれも村岡花子の翻訳がある。赤毛のアンのキャラクターはスーパーガールとシンデレラの系譜につらなる。孤児の境遇にもかかわらず、優等生になり、教職を得て理想のパートナーと家庭を築くという成功物語は、実は日本にはなじみが少ない19世紀アメリカにマーサ・フィンレイによるエルシーブックスという前例があった。 秋元ジュニアシリーズの多くの作品はアメリカで少女ジュニア小説の黄金期シリーズであり、ハイスクールやカレッジライフをめぐる同時代のリアルな物語である。女子高校生はこれといった専攻意識もなく大学に進学する。テーマは主としてデートや卒業舞踏会、夏休みのできごとで、普通の女の子の自己認容が課題である。白人中産階級中心で、ベティ・カヴァナの『ジェニー・キムラ』を除いてはマイノリティはほとんど登場しない。結婚生活礼賛の価値観に貫かれている。男子の兵役を除いては、ほとんど戦争のような現実社会の問題は描かれない。 テレビで『パパは何でも知っている』『うちのママは世界一』が放映され、50年代アメリカの理想化されたファミリーライフのイメージが普及した。このような大衆イメージと合わせて秋元ジュニアシリーズが、全国学校図書館選定図書になっていたということは、鶴見俊輔のいう「押しつけられた」米国風生活様式の基準であったことは否定できない。 2013年に死去したハヤカワ・ノヴェルスの中心だった常盤新平の回顧展があり、1960年代でもアメリカ文化翻訳に苦労していた。1950年代では読者はどれほど理解できたのかわからないが、シリーズは若干の発売日と送料の差額以外は、全国一律に売れている。とはいえ、特に基地のある町ではGI文化をとおして、理解度が深まったと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東京・大森の村岡花子記念館の資料は村岡花子の母校、東洋英和女学院に移管処理中であるため、休館している。村岡花子についてはNHK連続ドラマの『花子とアン』にちなんで、全国各地で多くの展覧会が開催され、関連資料が展示され、未収録のエッセイ集の出版も相次ぎ、人間像の全貌には近づいてきたが、翻訳業籍の研究については同時代のミッションスクールの先駆的西洋文化導入の環境理解がもっと必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
アメリカでは1950年代には家庭回帰の風潮の裏側に、性の解放が進み、女子の大学中退と早期結婚の比率も高かったのが現実なのに、1950年代の大学を舞台とした少女小説には性描写がほとんどない。この現実と虚構のギャップはどのように解消されていくのかという疑問をとくために、1960年代の作品も読み進めていきたい。学園ロマンス物とひとくくりにされがちなジャンルであるが、デュ・ジャーディンの作品は少女小説でも例外的にNYタイムズの書評にとりあげられる文学的価値があるようなので、個別の作家の特性を理解するようにしたい。 アメリカの少女雑誌Seventeen のカットが秋元ジュニアシリーズの表紙に転用されていて、読者の評判が高い。この雑誌の育む同時代の少女文化を知るためKelly Massoniの Fashioning Teenagers : A Cultural History of Seventeen Magazine(2010)のような著作が出ているので参考にしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
1950年代のアメリカ少女ジュニア小説の原書は、テクストが電子データ化されているものも増えているが、装丁も見たいので、翻訳に使用された初版に近い版をネットで取り寄せている。多くは図書館の廃棄本であるが、書店の倉庫が海外に複数あるのでUPSでも船便でも送料が高くつき、同時梱包による割引が適用されない。そのためコストがかかり為替も円安になり、予想以上に高額になった。
|
次年度使用額の使用計画 |
今後は原書テクストについては海外輸入の分はコスト節減に努める。Kindleによる電子データを購入し、送料をカットしていくようにする。
|