当該研究課題に関する本年度の研究成果として、論文2点を発表し、共著書を1冊を刊行した。論文「『恋愛専科』と〈ローマ〉――保守性、ローマの選択、魔女、ユダヤ性」(2015.12)では、保守的立場から制作されたアメリカ映画『恋愛専科Rome Adventure』(1962)が舞台を原作のパリからローマに変更した理由、それと関連して魔女的登場人物の存在を強化していることなどについて論じた。論文「奪い返す『自然』と抗う想像力――ピラネージのローマ表象をめぐって」(2016.3)では、18世紀イタリアの版画家ピラネージがローマを主題に作成した版画をめぐりながら、同時代のヴァージによるローマを主題とした版画と比べて、古代ローマへの敬意が際立っていること、その態度が、同時代のモンテスキューやギボンの古代ローマ史への態度には似ず、むしろ、ルネサンス期のマキャヴェッリやのちの19世紀のミシュレやモムゼンの古代ローマ史への態度に似ていることについて論じた。共著書『18世紀ヨーロッパ生活絵引――都市の暮らしと市門、広場、街路、水辺、橋』(2015.3)のなかで私はローマ、ヴェネツィア、ロンドンを担当し、ローマの表象のされかたについて、同時代に作成された10点の絵画・版画を利用しながら解説した。 当該研究は、都市ローマについて、18~20世紀に提示された表象の特徴を、文学作品、滞在記、絵画・版画、演劇・オペラ作品、映画作品などを領域横断的に、英、仏、独、伊語圏にまたがって検討することを目的とした。当該課題に関して発表した研究成果は、助成金交付直前の「『ローマの休日』(?)とバイロン」(2012.12)を含めて、論文が7点、共著書が1点である。まだ資料検討中で成果発表に至らぬものも含めて、目的の多くを達成するとともに、今後の本格的研究に備えることができたので、「挑戦的萌芽研究」の目的は果たした。
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