研究実績の概要 |
本課題研究の最終年度となる本年度は、初年度に行った基礎資料の初歩的整理と分析を基礎として、第二年度に行った郊廟歌辞実作の精密な読解をひき続き進めた。 封禅を構成する三つの儀式(登封・降禅・朝覲)のうち、玄宗開元十三年封禅に関しては、初年度から第二年度にかけて詳細な訳注を作成した登封儀に対する歌辞(張説作)のほかに、降禅儀に際して奉奏された全八首の楽章歌辞(賀知章・源乾曜ほか作)が現存する。今年度は、この歌辞について28,000字におよぶ詳細な訳注を作成した。本訳注では、前年度までにひき続き、初年度のテキスト整理によって得られた知見をもとに、本文を従来顧みられることの少なかった『大唐郊祀録』所収歌辞の文字と対校することにより、『楽府詩集』および『旧唐書』音楽志のテキストを校訂できた箇所が少なくない。また、『毛詩』(おもに雅・頌)三礼を中心とする儒家経典、『楚辞』や『文選』、前漢「郊祀歌一九章」以来盛唐以前の各種郊廟歌辞や郊廟祭祀に関わる勅令、開元十三年本封禅にまつわるその他の詩文、祭祀儀礼そのものについての規定・記録などを渉猟することにより、歌辞楽章の措辞やその発想の拠り所を相当詳細に明らかにできた。 他方、歌辞本体読解を基にした初盛唐郊廟歌辞と同時代の学術・政治との関係の考察については、期間内に充分な成果を得ることができなかった。この研究を進めるには、玄宗期のみならず、武后期、太宗期の郊廟歌辞分析を通じた祭祀構造の把握が不可欠となる。今後はそれらについてひき続き分析を進めたい。
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