3ヵ年計画の最終年度の研究として、本年度はこれまでの調査・研究を総括しつつ、比較研究も織り交ぜながら、次なる研究に向けての土台を整備した。そもそも本研究は、複数の接触言語変種で観察されるディスコース・語用論的変化に共通する特徴を検出することを目指したものであり、本年度はこれまでの研究内容を補足・充実させるとともに、総括的かつ総合的な分析・研究を展開した。 具体的には、パラオ共和国にて追加調査を行い、データを補足するとともに、ディスコース・語用論的変異と変化が観察される他地域・他言語変種との比較を行った。若年層によってパラオ英語に取り入れられ始めたパラオ語由来の4つの「呼び掛け語(address terms)」の機能および社会的意味に関する分析を深め、他の接触英語変種で用いられている語用論的・談話マーカー「you know」・「dude」・「bro」などとの比較研究に着手した。その途中成果を3月に国際学会(8th International Conference on Corpus Linguistics)で公表し、そこで得られた貴重なフィードバックを反映させたものを、来る5月に開催される国際学会(Discourse-Pragmatic Variation & Change 3)にて発表する予定である。 さらに、土着語であるパラオ語自体も長い植民地時代を経て接触言語として変容し続けていることから、パラオ語に関する研究にも着手した。とりわけ、日本語由来の借用語が幼児語として活用され続けていること等を発見し、その形成過程や機能等を探った。その途中成果を編著書『Aspects of Postcolonial Linguistics: Current Perspectives and New Approaches.』(Mouton de Gruyter)にて「The role of domain and face-to-face contact in borrowing: The case from the postcolonial multilingual island of Palau」として刊行したところである。今後は、こうした借用語に関してもディスコース・語用論的観点から考察を深めていきたい。
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