この研究は、ともにコピュラと解釈されることがある日本語の(文末の)「ダ」と、グイ語(コエ語族)の「'a」とが、それぞれ情報構造との関わりも見せることから、これらの対象をもとに、類型論的立場にたった通言語的比較対照の可能性をさぐるものである。 最終年度である今年度は、南紀方言における「ダ相当形式(ヤ)」の分析を収集した会話テキスト等を用いて実施し、時制・否定の形式との共起関係を考察することによって、「ノダ(ンヤ)」は「ノ+ダ(ン+ヤ)」と分析するのが妥当であるという結論に至った。次にこの議論が現代日本語の分析においてはどの程度有効であるかを考察した。 グイ語に関しては、継続して中年層(30~40代)・年配層(50~60代)による会話および民話資料のトランスクリプションをおこない、それらの資料における焦点マーカーと「'a」の出現を観察し、情報構造の観点から分析した。年代差を考慮するために、さらに高年者によるフォークロアの収集も行った。また面接調査を通じて、さまざまな「コピュラ文」を分析し、それらと時制の共起を観察した。 さらに、これら両言語の名詞述語文における時制・ムード・否定をあらわす形式の現れ方と、さまざまな機能がどのように(単独の形式によって)担われているかを分析し、「ダ」と「'a」が共有して持つ「肯定・同定・判定」という機能が語用論的にどのように拡張されるかを考察した。
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