本研究は、日本人乳児を対象に、日本語の特殊モーラを含む音韻対立に対する弁別能力と脳反応の発達過程を調べ、既知の発達過程を拡張した包括的な音声知覚に関する発達指標の確立を目指す研究である。 本年度においては、撥音及び二重母音弁別児の脳機能測定を、5.5ヶ月児、10ヶ月児において実施した。本調査の詳細な解析は進行中であるが、昨年度に実施した同様の刺激に対する4ヶ月児の結果と比較すると、両月齢群とも左右の聴覚野における脳反応の増大が観察される見込みである。二重母音に対する結果は、生後5.5ヶ月以降で二重母音を含む対立の弁別が可能となる行動実験の結果と脳機能との対応が見られたことを示す。撥音に関しては、4ヶ月児ですでに弁別が可能であったが、脳機能において月齢の上昇に伴って変化が見られたことから、撥音に対する発達的変化が脳機能において示されたことになる。 昨年度までの結果と合わせてまとめると、1、行動実験により、長短母音や促音/非促音の弁別能力が生後10ヶ月程度で獲得されるのに対して、撥音や二重母音を含む対立の弁別能力は10ヶ月以前に獲得されることが示され、2、脳機能測定により、刺激に対する左右聴覚野の反応が特殊モーラごとに異なり、弁別能力の獲得に概ね沿って左優位性が獲得されることが示唆された。 これらの結果から、特殊モーラに対する発達軌跡は、生後1年程度の間に特殊モーラの種類ごとに異なっていることが観察された。
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