本研究において、Eugene O’Neillの演劇作品のテクストの電子化を行い、彼の50作品中43作品[約100万語]のコーパスを台詞の文体分析の基礎データとして作成すると同時に、Somerset Maughamの作品からも2作品(約6万語)のコーパスを作成した。本研究において作成したEugene O’Neillの演劇作品のコーパスを用いて登場人物の台詞の文体分析を行うことにより、登場人物の対話での台詞と心理傍白の台詞の語彙的・統語的特徴の差異について分析することにより、登場人物が意識している思いや責任感、そして登場人物の内面の葛藤など様々な人物像が効果的に観客(読者)に伝達されるように、台詞にどのような言語的工夫が施されているのかが検証された。また例えばDays Without Endの台詞の分析では、高頻度語のコロケーションを分析することにより、登場人物の相克する思いを反映するかの様にターゲット語と近接する語彙が対照をなしていることが明らかにされた。このように今回作成したコーパスから得られる語彙情報と統語情報を用いることにより、多角的に演劇の台詞の文体分析が行える様になった。 そしてYale大学のBeinecke図書館における文献調査並びに同図書館からの資料の提供により、Eugene O’Neillの幾つかの作品の草稿とアイデアノートを得ることが出来、O’Neillが創作過程において行った加筆修正のプロセスや、例えば心理傍白の手法の使用ことの意図など、劇作家の創作過程に置ける様々な意図を資料から明らかにすることができた。 今後の研究においては、今回作成した基礎資料としてのコーパスに更に情報を付加した精緻化コーパスの作成と更なるマニュスクリプト調査により、より高度で多角的な台詞の文体分析へと発展させて行くことが望ましい。
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