研究課題/領域番号 |
25580111
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉村 泰 名古屋大学, その他の研究科, 准教授 (60324373)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 第二言語習得理論 / 母語転移 / 日本語学習者 / 自他動詞 / 受身 / 他動性 / 意志性 / 対照研究 |
研究実績の概要 |
本研究は日本語学習者にとって習得が難しいとされる日本語の有対動詞の自動詞、他動詞、受身の選択について、母語転移の観点から分析したものである。本年度は昨年度に引き続き、動詞の他動性、意志性、迷惑の意味の相違によって、次の(1)~(3)のような格助詞と動詞の双方を同時に一つずつ選ばせる選択テストを60問用意した。 (1) 風でドア(が/を)バタンと(開いた/開けた/開けられた)。 (2) 火災で家(が/を)(焼けた/焼いた/焼かれた)。 (3) さあ、お茶(が/を)(入った/入れた/入れられた)からひと休みしましょう。 これを日本語学習者(英語話者、クメール語話者)に実施し、60問それぞれの自動詞、他動詞、受身の選択率を集計した。その際、(a)母語別、(b)習得レベル別にデータを整理した。また、この60問の選択テストを英語、クメール語に翻訳し、各言語話者に母語による選択テストも行った。さらに日本語を母語とする中国語学習者に、中国語による選択テストを行った。 次に、昨年度と同様にアンケートによって得られたデータをもとに、各言語話者の日本語における自動詞、他動詞、受身の選択率の比較を行った。その結果、全体的に「電池が止まる」のような対象の自発的変化を表す場合には自動詞選択に偏り、「コーヒーにミルクを入れる」のように動作主の意図的行為を表す場合は、日本語話者は自然による「変化」という点に着目して自動詞選択に傾くのに対し、日本語学習者は自然力による「作用」という点に着目して受身選択に傾くなど、日本語母語話者と日本語学習者の事態認識に対する違いを明らかにした。この結果をもとに、昨年度の調査結果と比較して母語転移などの面から各言語話者の細かな違いを分析する基盤を作った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は日本語学習者のデータ収集が進むことが重要である。この点において海外共同研究者の協力により順調にデータが収集されている。さらに収集したデータから日本語学習者の母語転移を示す興味深い事実が見つかっており、今後の分析によって学区周者の自動詞・他動詞・受身の選択に関する実態が明らかになる見通しが立っているため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は日本語学習者の自動詞・他動詞・受身の選択意識と母語転移に関して、アンケートによる選択テストを行うことにより実証的に明らかにするものである。これまでに日本語母語話者、中国語母語話者、韓国語母語話者、中朝バイリンガル、ウズベク語母語話者、マレー語母語話者、英語母語話者、クメール語母語話者に関する日本語および母語によるデータ収集を行った。また、日本語母語話者には中国語によるデータ収集も行った。これらのデータをもとに、現在各言語話者内の日本語習得レベル別の習得状況と、各言語話者の母語による影響について分析を進めている。 今後は60問のアンケート項目ごとに、動詞の語彙的特性(格体制やアスペクト的特徴など)や迷惑の意味の有無などの観点から詳細に分析し、各言語話者の母語の影響と習得レベルの向上による変化について詳細に分析する。それにより、各言語話者の日本語習得状の困難点とその要因を明らかにして、日本語の文法教育に貢献する指摘を行う予定である。とりわけ、「人為的事態」と「非人為的事態」の違いに着目して、各言語話者が何を以て事態を「人為的・非人為的」と捉えるのか、何を以て「動作主指向的・対象指向的」と捉えるのかという心理的要因についても明らかにしたい。さらには各言語話者に共通する特徴と各言語話者によって異なる特徴を明らかにして、日本語教育上、通言語的に教えられる部分と個別言語ごとに教え分ける必要のある部分とを区別する。これによって、より効果的な日本語の文法教育をするための提言をする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の所要額を大方使い切ったが、一部残金が残ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費の中に合わせて使用する計画である。
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