本研究は日本語学習者にとって習得が難しいとされる日本語の有対動詞の自動詞、他動詞、受身の選択について、母語転移の観点から分析したものである。本年度はこれまでの研究成果をもとに、新たに(1)~(4)のような60問の選択テストを作成した。前回の調査では格助詞と動詞を別々に選択させたが、今回は初めから両方をセットにして回答してもらった。 (1) 病気で去年より体重(が減った/を減らした/が・を減らされた)。 (2) ダイエットで去年より体重(が減った/を減らした/が・を減らされた)。 (3) おや、去年より体重(が減った/を減らした/が・を減らされた)ね。 これを日本語母語話者および日本語学習者(中国語語話者、韓国語話者)に実施した。その結果、日本語母語話者は自動詞を選択しやすく、他動詞は動作主の目的意識や責任意識が強いときに選択され、受身は人的被害の影響が大きい場合や客観的描写をする場合に選択されることを明らかにした。一方、中国語母語話者は「電池が切れて時計が止まった」の「止まった」ように自発の意味が強い場合は自動詞が選択されるが、風や熱や光など自然力による作用の場合や被害の意味を表す場合は受身が出やすいこと、人為的作用の場合は他動詞が選択されやすいことを明らかにした。また、韓国語母語話者は全体的に日本語母語話者と中国語母語話者の中間的な選択傾向を示すことを明らかにした。さらに前年度採取したクメール語話者の自動詞、他動詞、受身の選択についても分析し、中国語話者に似た選択傾向を示すことを明らかにした。 以上の結果と昨年度までの結果を総合的に分析し、中国語話者・韓国語話者を中心に、英語話者・マレー語話者・クメール語話者・ウズベク語話者・中朝バイリンガルにおける日本語の有対動詞の自動詞、他動詞、受身の選択について、母語転移のある部分とあまりない部分の違いについて分析した。
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