研究課題/領域番号 |
25580118
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
新矢 麻紀子 大阪産業大学, 教養部, 准教授 (70389203)
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研究分担者 |
棚田 洋平 一般社団法人部落解放・人権研究所(調査・研究部), その他部局等, 研究員 (00639966)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 定住外国人 / リテラシー(識字) / 日本語学習機会と日本語教育 / 社会参加 / 職業の獲得 / 国際結婚による移住 / 地域課題 / 移民政策と言語保障 |
研究概要 |
本研究の目的は、日本在住外国人のリテラシーの実態を明らかにすること、外国人対象に識字教育実践を行い識字能力を養成し、社会参加を促進することにある。2013年度は調査対象地(愛媛県南部)を2013年11月、2014年2月、3月に計3度来訪し、調査と教育実践を行った。2014年3月は、調査の中核地となる町に加えて隣接自治体でも教室開催と調査を実施した。 調査に関しては、在住外国人および地域住民へのエスノグラフィ調査を実施した。定住外国人を対象に、生活の中でどのような識字問題を抱えているか、どう対処しているか等について聞き取りを実施した。また、県の国際交流協会、自治体、教育委員会、外国人の友人・知人、地元ケーブルテレビ局、町づくり活動に参加している住民等に聞き取りを行い、多角的視点からの分析を試みた。外国人当事者の生活史や生活上のリテラシーの課題が浮かび上がるとともに、地域住民の声が得られて、地域の特徴や受け入れ態勢が見え始めてきた。これは本研究の今後の展開のみならず、日本における外国人受け入れ態勢づくり・町づくりに方向性と示唆を与えてくれよう。識字教育実践に関しては、1度の来訪につき2,3回、教室を開催し、計14名の学習者が参加した。各学習者の初回参加時に独自の書字言語能力診断テストを行い、日本語の文字の基礎能力や文字習得度を確認した上で、各学習者の文字習熟度や出席回数・時間、学習内容の希望や生活での必要性に応じた個別指導を実施し、学習者別ポートフォリオによって学習管理を行った。年間3度でも、日本語学習の場が皆無の地域に文字学習機会が提供されることで、フォーマルな日本語学習経験のない学習者に学習に向き合う意識を促進し、書字言語習得のための基礎体力を養成できた点で社会教育的、日本語教育的観点から意義がある。また、書字言語能力測定は教育効果を上げるためにも必要かつ有効であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究が当初計画より遅延している第一の理由は、報告者の止むを得ない個人的事情により、研究の開始が約3か月遅れたことである。そのため、第1回現地調査が当初予定の8月から11月に延期となり、それに伴って分析もずれ込んでいる。第二の理由は、外国人の教室への参加が時間、頻度とも極めて不規則であるため、学習計画が立てにくく、学習進度が計画よりかなり遅れていることにある。第三には、第二の理由とも関連するが、外国人への聞き取り調査もアポ取りが難しいことが多く、予定していた人数を下回っていることによる。これらの結果として、調査結果の分析と研究成果の公表が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も基本的には当初の計画に基づいて研究を推進していく。まず識字教育実践については、書字言語能力診断テストの改訂と精緻化を図る。またこれまでの参加学習者への継続参加を促し、同時に新たな学習者の開拓を試みる。教育内容に関しても、各学習者の生活実態と要望を正確に把握し、適切な個別プログラム作成を行う。そして、地域独自教材の開発にも力を注いでいきたい。調査に関しては、上記のように外国人への聞き取り調査が若干遅れているので、教室に参加している外国人のみならず、教室に参加したことがない外国人へもアプローチを試み、聞き取り調査を行いたい。また、聞き取り調査を行った対象者への次段階の調査として、密着型参与観察調査、即ち、調査対象者に1~2日間密着し、彼女らがどのような識字場面に直面しているかを参与観察と写真撮影(静止画・動画)によって取材し、聞き取りだけではわからない当事者も意識しない識字の実態を明らかにする精密調査を実施したい。一方、外国人を取り巻く地域の人々への調査からは、興味深い事実が明らかにされ、予想を上回る成果が上がった。家族や知人・友人、職場の同僚や上司、教育関係者、福祉関係者にも対象を広げ、広く、深く追究していきたい。また、調査のみならず、行政や地域住民と外国人の存在や彼らの言語生活の実態について意見・情報交換を行うことで、受け入れ側住民の意識改革や町としての外国人受容力の向上を目指したい。また、2014年3月と5月に訪問した隣接自治体でも教育実践と調査を継続していく予定だが、中心となる調査地での研究とどう時間や内容を配分し、どう関連付けるかについては現在検討中であり、今しばらく計画の策定に時間が必要である。2013年度の研究の分析や考察が未だ進行中なので、早々に分析を進め、今年度中に学会発表と実践報告、ならびに研究ノート、中間報告論文の執筆を行う計画である。 、
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次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」欄に記入したように、調査の進行が遅れたため、調査回数が計画より1回分少なかったため、支出予定の旅費が残った。人件費・謝金については、聞き取りデータの文字起こしを業者に依頼する予定であったが、研究の進捗状況から判断して、次年度にまとめて依頼することとした。研究書籍やICレコーダ等は研究代表者、研究分担者、連携研究者それぞれが手持ちのものを活用したり、別途購入したため、購入が不要であった。購入予定である印刷機については適当な機種がなかったため、次年度に延期した。 物品費については、印刷機等の必要機材と研究書籍の購入を計画している。旅費については、今年度は愛媛県での調査回数を増やすことが共同研究者との打ち合わせで決定した。また海外旅費については、韓国またはイギリスまたはオーストラリアにおける移民へのリテラシー施策、リテラシー教育実践についての調査も予算的に可能であれば実施したい。人件費・謝金については、2013年度調査と2014年5月調査の聞き取りデータを5月中に一旦、業者発注し、その後、随時依頼していく計画である。
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