研究課題/領域番号 |
25580120
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
助川 泰彦 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 教授 (70241560)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ブータン / 多言語社会 / マルティリンガル化政策 / ゾンカ語 / 英語イマーション |
研究実績の概要 |
初年度においてはティンプー、プナカ、およびパロの小学校、ハイスクール、および大学を訪問し英語イマーション教育の実情を見学すると同時に教員および学習者に聞き取りを行った。また、東京に留学中のブータン人大学生に聞き取り調査を行い、National Integration Policyの実体験について聞き取りを行った。2年目はこれらの調査で得たデータや資料を分析すると同時に文献調査を進め、3年目の調査に備えた。 臨地調査および日本国内での調査の結果、同国における言語政策は本研究計画立案前の聞取りから分かった「国民総マルティリンガル・マルティカルチュラル化」を目指すものであったことが確認され、現状では小学校から英語トータルイマーションが実施され、成果の上がっていることが確認された。 同国の言語状況は日本と比較すれば非常に複雑で、生活の中心となるチベット仏教の行事は西部の有力言語であるゾンカ語(ゾンカ)で執り行われ、読み書き能力も信者には求められる。一方でテレビや新聞はゾンカと英語が併用され、特に一般市民の娯楽である映画やアニメは吹き替え無しのアメリカ作品に英語字幕が付されており、幼い頃から真剣に英語を理解しようとする態度が観察された。また、国内には相当数のネパール系ブータン人がいることとからネパール語に接することが多く、一部の人気アニメ番組がネパール語で放送されており成人の多くはネパール語も理解する。同じようなことがヒンディー語についてもあり、大学卒業程度の学歴を有する国民の場合、ゾンカ、英語、ネパール語、ヒンディー語、さらに出生地の言語ないし方言を含め5言語以上を理解し、話す能力を備えていることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブータンでの臨地調査において交通の不便や想定外の出来事によって予定通りの調査を実施することができなかったこと、および日本国内で留学中のブータン人大学生聞き取りについても予定の人数を行うことができなかったものの、有益なデータを得られたので、3年目においてこれらの蓄積を元に当初の研究目標に達成すべく2度のブータン渡航を計画している。これまでに広げた人的ネットワークを元に所期の目標に到達することは十分に可能だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
収集したデータと文献調査で得られた情報を元に今後は2度のブータン現地調査を計画している。ひとつは中学生か高校生のいる家庭に10日間程度の予定でホームステイをし、生徒らの英語とゾンカ語、および地域使用言語の併用について参与観察を行う予定である。調査においては学校長および地方の政府機関教育部門関係者から正式の許可を得た上で、OPIおよび筆記テストを行い、CEFR等のレベルチェックを行って英語の能力を定量的に測定する計画である。 もうひとつは半構造化インタビューを準備し、児童生徒、大学生、教員、および保護者の経験と考えを聞き取り、多言語使用の背後にある学習動機、多言語話者であることと多文化性の関係を国民統合政策(National Integration Policy)の理念に照らし合わせて明らかにしようと計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
ブータン渡航による調査を計画していたが、年度途中において大学異動が生じたため中止せざるを得なかった。27年度においては臨地調査および日本国内調査の回数を増加し、所期の研究計画通りに成果を得られるように考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
ブータン臨地調査2回。国内調査6回。収集データの文字化、翻訳作業。データの分析。報告書および学会ないし研究集会での発表を計画している。
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