本研究は、言語指導にかかわる教師の認知(ビリーフ、知識、思い込みなど)の探求を目的として2年間実施した。本研究は、欧米の探索的な質的調査方法(インタビュー、観察、懇談)では明らかにしにくい、複雑な言語教師の認知を、日本的な思考と複雑性(系)理論(Complexity Theory)を応用した「全体を見る」手法を用い、大学英語教育学会言語教師認知研究会(代表:笹島茂)がこれまで蓄積したデータを基盤として、フィンランド、ヘルシンキ大学Pirjo Harjanne 教授の協力を得て、言語を指導する教師の認知の特徴を探索的に調査することを意図した。本研究の具体的な目標は次の3点である。1. 言語教師の認知の調査方法の開発、2. 言語教師の認知が与える授業と生徒の学習への影響、3. 言語教師の認知に関する複雑性(系)理論の応用。 結果として、2.に関して十分な成果を得ることができなかったが、1.と3.に関しては、ある程度の成果を達成できた。つまり、複雑適応系(Complex Adaptive System)(CAS)を基盤として、次の10段階のステップによる調査法を開発した。1) テーマの設定、2) テーマに沿った提案者(探求者)の設定、3) テーマに沿った共同探求者の設定、4) 探求者と共同探求者の関係性の構築、5) 探求者からのテーマに沿った課題の語り、6) 共同探求者からの探求者への質問、7) 探求者の語りの深化、8) 探求者と共同探求者によるテーマの図式化(再現、遡行) 、9) いくつかのテーマの典型パタンの抽出、10) テーマの特徴的な典型パタン、ダイナミック認証(signature dynamics)を再現。本報告書では、教師と生徒の授業における関係性についての考察を、フィンランドと日本の教師を、アンケート、授業観察、インタビューのデータをもとに具体的に示した。
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