本研究は、近年広く用いられている多肢選択問題に注目し、その有用性を損なうことなく、より精緻に文法的知識の理解度を測定するための問題開発を目指す研究である。本研究が、その形式として焦点を当てているのは、一般的な択一式ではなく、複数正答式である。 本研究では、択一式と複数正答式の二つの形式を用いた比較調査(解答結果および解答プロセスの比較調査)を実施し、複数正答式は択一式よりも理解度の測定に優れた形式であるとの結論を得ているが、その一方で採点の難しさ等の新たな課題も示された。そこで平成28年度は、複数正答式を活かすための採点方法について検討するために、「誤答」に焦点を当てた研究を行った。研究の結果として、複数正答式では、それぞれの問題に対する解答を単純に正誤に分けるのではなく、「選択された選択肢」と「選択されなかった選択肢」という観点から正誤を判断することが有意義であること、そして「選択されなかった選択肢」を採点に用いることによって、より精緻な理解度の測定が可能であることが示された。 具体的には、大学生47名を対象にした文法多肢選択問題(複数正答式)を用いた調査において、“be going to”に対象を絞って分析し、1) 対象項目を問う問題のみで採点した場合(通常の採点方法)と2) 対象項目以外を問う問題に錯乱肢として設定されている “be going to”を「選択しなかった」ことを採点に加えた場合を比較したところ、1)に全問正解した学習者17名のうち、2)においても全問正解したのは5名のみであった。すなわち、17名中12名は、“be going to”を「使ってはいけない」場面が正しく判断できていなかったことが示されたと言える。これにより、より正確に文法事項の理解を測るためには「選択されなかった選択肢」を採点内容に加える採点方法を用いることが有意義であろうとの結論を得た。
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