研究課題/領域番号 |
25580145
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研究機関 | 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター) |
研究代表者 |
二五 義博 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター), その他部局等, 教授 (60648658)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CLIL(内容言語統合型学習) / 教科横断的指導 / 多重知能理論 / コミュニケーション能力の育成 / 小学校英語教育 / 海外の外国語教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、2020年に教科化が予定されている小学校高学年(5・6年生)を主な対象としている。その目的は、海外や日本の事例も参考にしながら、他教科内容を生かす英語指導を行うことが、児童の英語学習意欲を高める上でも、将来に役立つ実用的なコミュニケーション能力育成を図る上でも最も効果的なことを理論的・実践的に示すことである。 これらの研究目的に沿い、研究の3年目である当該年度においては、これまで収集した学術資料を基に海外での事例研究を継続するとともに、国内の小学校については最新の情報を得る目的で、できるだけ多くの関係する学会や研究会に参加した。 その一方で、3年目ではこれまでの研究成果として、論文執筆やいくつかの学会口頭発表を行った。前者は、2015年9月、日本児童英語教育学会(JASTEC)より公刊された「小学校高学年における英語科授業の実践報告―他教科内容を活用したクイズの作成と発表を通して―」というタイトルの論文である。この論文では、本科研の目的の1つでもある理論と実践の融合を試みた。まず理論面では、海外の内容重視の指導(CBI)、教科横断的指導に関する諸理論や多重知能理論をふまえつつ、日本における小学校の教育現場に合うような形で、小学校高学年の英語の授業で目指すべき指標を取り出した。次に実践面では、他教科内容を活用したクイズを事例とする英語科授業の導入が、本稿で設定した5つの指標である「言語」「内容」「思考」「協学」「個性」の面において、小学校高学年児童のこれら5つに関わる能力の育成にいかなる効果があるかを明らかにした。 後者としては、小学校英語教育学会(7月)や全国英語教育学会(8月)にて口頭発表し、小学校高学年におけるCLILの実践とその効果の検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、理論と実践の両面から、他教科内容を活用した小学校英語教育がいかに効果的であるかを明らかにし、ヨーロッパのCLILそのものの輸入ではない、日本型の「内容」と「言語」を統合した新しい指導法を提案することにある。 理論については、2年目から継続する形で、文献等を通じてCBI(内容重視の指導)、多重知能理論およびCLIL(内容言語統合型)の視点から、小学校における教科横断的な英語指導法の研究をさらに深めた。3年目では、日本型CLILを開発するためには「個性」の視点が重要なことと、ヨーロッパ的な新しいことを学ぶCLILではなく「復習」の視点が不可欠であることも指摘した。その意味で、理論面だけに限るならば、研究は順調に進展しているといえる。 しかしその一方で、実践面については、本研究が「他教科」というくくりで、算数、理科、社会、図画工作、音楽など多くの科目を対象としているため、当初予定していたより遅れが生じている。これまでは算数、理科、社会のみの事例で研究を進めてきたが、この3科目だけでも英語教育にどう活かすかを考察するのは、予想以上に大変な作業となっている。 以上、理論面と実践面を合わせて評価した結果、現時点での進捗状況は「やや遅れている」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を土台にしつつ、更なる研究の発展を目指して、以下の2点を補完するような形で今後の研究を推進したいと考えている。 1つは、一部パイロット的な学会口頭発表は3年目に行ったが、CLILとNon-CLILの比較である。CLILのみを見たのでは全体像は見えてこない。そこで、CLIL的な教科横断的活動とNon-CLILの活動との比較をしながら、「聞く」「話す」や語彙、教科内容への動機づけ、思考や協学の側面で、どのような量的・質的な違いがあるかを検討する予定である。具体的には、CLIL的なものとして「海の生物」「算数の計算」「世界地図や特産物」「理科や社会クイズ」等の活動を取り上げ、アンケート結果などから、Non-CLIL的活動と比較考察をする。 もう1つは、小学校高学年の英語指導に利用する科目ごとの違いの整理である。本研究においては、単に他教科内容を英語教育に取り入れるというレベルにとどまらず、どの教科のどの部分を英語学習に利用すれば効果的なのかといった、より具体的かつ実用的なレベルで研究を進めていきたい。そのためには、算数、理科や社会を英語で教える際の利点や課題を比較検討しながら、体系化や概念化を行い、最終的に日本型CLILのモデルを作ることが必要になってくると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として予定していたCBIやCLIL、日本や海外の小学校英語教育関係の図書については、3年目の研究段階でも所属校の研究費等でまかなうことができ、科研費を使用する必要がなかった。また、2年目に引き続き、インターネット上で公開されている無料の学術資料を多く取得できたことで費用がかからなかった。 国内旅費については、今回参加した主要な小学校英語教育関係の学会のいくつかが地元広島や近くで開催されたため、出費が最小限に抑えられた。加えて、外国旅費については、2年目の1回に続き、3年目にも少なくとも1回を計画していたが、3年目は予期しなかった学内業務で多忙となり、まとまった期間が必要な海外調査(これまでの事例研究を補完するための)に出ることができなかった。これが次年度使用額が生じた一番大きな理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度である4年目には、ここ最近CLILに関する書籍が次々と出版されていることもあり、図書費は所属校の研究費だけではまかなえなくなることが予想される。そこで次年度には、CLILの最新の動向を取り入れた研究を行うためにも、科研費を利用して図書を購入することを計画している。 外国旅費については、2年目に1度海外に行った後、3年目は校務の関係で断念せざるを得なかったため、今年度は少なくとも一度海外出張することを計画している。これは海外での最新のCLILに触れて、これまでの研究をさらに補完し、発展させていく意味合いもある。 なお、次年度には物品費よりも旅費(国内・外国)の方により多くの残額を使用する計画である。これは研究の進展により、図書の購入よりも現地での情報収集や学会での成果発表の方が本研究にとって重要となってきたためである。
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