研究課題/領域番号 |
25580150
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
百瀬 響 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (10271727)
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研究分担者 |
関根 達人 弘前大学, 人文学部, 教授 (00241505)
遠藤 匡俊 岩手大学, 教育学部, 教授 (20183022)
越田 賢一郎 札幌国際大学, 人文学部, 教授 (70585710)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アイヌ交易 / 威信財 / 広業商会 / 場所請負 / ガラス玉 / 陶器 / 金田一文庫 / 近世北海道災害 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、研究代表者・分担者および協力者による会議において、これまでの研究成果を発表し、来年度のシンポジウムにそなえた。 代表者の百瀬は、幕末の余市場所に関する文書および近代の例としては明治初期にアイヌ交易をおこなった「広業商会」文書を精査し、アイヌ―和人間の交易物資、数量(年間)、労働対価を明確化した。この研究内容については、いまだ調査継続中であるが、今年度中に論文化する予定である。またこの研究の応用として、高等教育におけるアイヌ文化教材化に関して、従来の授業による学生のアイヌイメージ形成の現状・改善点を含めた論功を発表したほか、『アイヌの民俗』の著者である早川昇ノート整理を遺族らから託され、現在、幕末から近代の交易や威信財に関する資料の解読を進めている。 研究分担者の越田は、ガラス玉(アイヌ玉)に関する研究において論文を発表したほか、製作地を調査し、近世以来の伝承・技術のほか、製作者らによる玉の分類法とそのサンプル採取を行った。同じく分担者の遠藤は、近世の請負場所において、災害時の被害状況とアイヌ―和人の協同の状況について、とくに財産としては、飼育していた馬の扱いをめぐる行動様式を明確化した。また、分担者の関根は、中世から近代初期の長いスパンにおいて、東北・北海道にみられる特定の陶器(油瓶ほか)の分布から、交易ルートを明確化した。 研究協力者の菊池は、近世東北において生産された物質を中心として、近世北海道全域の請負場所で流通した実態を明確化した。同じく協力者の品田は、金田一文庫の悉皆調査結果から、交易に関する記述を近世から近代にいたるまで明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究代表者の怪我による遅れにも関わらず、平成26年度は研究代表者・分担者・協力者ともに、史資料の調査収集が予定よりはるかに進展し、今後の研究につながりうる多くの発見があった。 具体的には、近代初期のアイヌ交易の実態と交易品の変化、近世東北と北海道の交易の実態、ガラス玉・陶器の中世から近代にわたる交易の変化、アイヌ―和人間の協働と給与形態の一部が物質研究により明らかになることが判明した。 さらに、交易物資およびその価格、漁場労働の対価を中心に精査することによって、中世から近代の北海道・東北の流通経路と交易状況を数量化するという、従来にはなかった研究手法の可能性が進展したと共に、文化人類学・歴史学・考古学分野において共同研究が可能であることが明らかになった。 ただし、資料目録は各自が作成途中にあることから、編集作業は次年度に集中して行うことになったため、評価は(2)おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度においても、各自が史資料の調査収集を進め、資料目録の作成を行うとともに、各自が論文などで発表する。さらにその結果として、調査結果をもとに資料集を完成する。また研究成果の社会還元を目的として、研究成果に関するシンポジウムを、一般市民に公開する。シンポジウムは、場所請負史料の主な利用地である余市町での開催を予定している。また、研究成果の学校教育での利用を念頭に、教材化(郷土教育資料として)研究に努める予定である。 本研究は、中世から近代にかけてのアイヌ―和人間の関係について、交易物資を研究対象とすることで、歴史学・考古学・文化人類学の共同研究により、史料の欠落を補いつつ、各時代の実態と変遷を明確化するための基礎資料を作成することが目的であった。平成26年度の研究成果により、その副産物として、通時的・共時的に比較する研究手法が有効であることが判明した。すなわち、主に交易物資とその価格、漁場労働の対価を対象に数量化することで、北海道・東北の流通経路と交易状況を、中世から近代の長いスパンで(通時的に)比較することが可能になるばかりでなく、北海道内の各請負場所について、地域間での比較(同一の時代における比較という意味で共時的)が可能となりうる。 このような手法を用いることによって、従来にはなしえなかった比較研究が可能となることから、北海道・東北地域における新たな歴史研究に資する可能性は大きいと考えられる。来年度は本研究の最終年度であるが、上述のシンポジウム・資料集発行を進めるとともに、当該研究を発展させるべく、あらたに科研費申請を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に行った会議において、研究協力者を2名招いたが、研究代表者による所属大学における、学外者への旅費システム入力ミスによって、「人件費・謝金」の支出が次年度に繰り越された。 今年度は、研究代表者が怪我のため4~5月の間休職したことから、予定していた「旅費」の使用ができなかった。また、調査資料のまとめを、最終年度である来年度一括して行うことになったため、報告書の作成費用として、入力のための「人件費・謝金」および印刷費としての「その他」の費用を消化できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度はシンポジウム開催のため、調査旅費に加え、シンポジウム開催地への旅費が発生する。研究協力者への支出についての事務処理をミスなく行うとともに、支出金に不足が出る可能性も考えられることから、過不足がないよう努める。 資料印刷の作業を、年度末より早い時期(研究代表者の所属する教育大学学生がアルバイト可能になる秋期を予定)に開始することによって、「人件費・謝金」「印刷費」を適正に支出する。
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