本研究課題の目的は、東アジアにおける水産業の形成と変容の問題を、日本の資料だけではなく、中国および韓国の資料を利用してマルチアーカイブな研究手法によって、研究することであった。日本が中核となって形成した東アジアにおける昆布漁・明太魚漁・オットセイ猟を中心に国際的な協業と対立の関係を明らかにすることを具体的な課題としていた。 今年度は、本研究課題の最終年度であったが、主に前年度に開催した研究会で課題となた点について分析を実施した。特に、以下の点について研究を進展させた。第一に、北海道の昆布の中国での流通について『通商公報』などから関係史料を収集して分析した(主に大正期)。第二に、報效義会が明治30年代前半に明太魚漁を朝鮮近海で実施したときに韓国の沿岸地域を租借しようとしたときに、ロシア側がどのように対応したのか、という点についての史料を見つけることができた。これまで日本では知られていない事実であり、水産業の問題が政治史や国際関係史と綿密に連関していることを示す事例である、と考えている。第三に、漁獲物の加工に使われる塩の生産と流通について関係史料と先行研究を収集した。中国の山東半島などの塩がどのように日本の水産物の加工に使われていたのか、という点を中心に考察を進めた。この点については、新たな科学研究費を申請して継続して研究していきたいと構想している。研究上の成果として以上の三点が重要であると思われる。
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