研究課題
本研究では、南限の古代須恵器の窯跡群である鹿児島県南さつま市中岳山麓窯跡群の生産と流通についての解明を進めることを目的とし、考古学的調査と、須恵器胎土等の自然科学分析を複合的に実施した。まず、中岳山麓窯跡群の発掘調査を実施した。調査は中岳山麓窯跡群荒平第2支群で行い、窯跡と灰原の一部を確認した。土層観察から、半地下構造の窯跡である可能性が高い。また、同じく荒平第2支群で地中レーダー探査を実施した。その結果、発掘調査で窯跡を確認した斜面とは反対側の傾斜地で、窯跡と推定できる地点を数カ所確認した。遺物については過去に中岳山麓窯跡群で採集され、資料公開されていなかった須恵器片の資料化を行った。さらに、それらの一部と発掘調査出土品および琉球列島の種子島・徳之島・喜界島出土の須恵器について複数の鉱物学的分析と中性子放射化分析を実施した。その結果、中岳山麓窯跡出土須恵器における考古学者の肉眼観察による胎土の差は、焼成温度に影響されていることがわかった。また須恵器と窯体片や近隣遺跡から出土している同時期の土師器の鉱物学的分析から、これらは類似するが、全く同じではなく、素地づくりの過程等によって鉱物学的差異が生じている可能性が出てきた。なお、中性子放射化分析では、種子島や喜界島出土須恵器の中に中岳山麓産須恵器と同定できるものがあり、中岳山麓産須恵器が琉球列島まで流通していることが確認できた。最後に、発掘調査で出土した遺物の整理作業を行い、発掘調査報告と自然科学分析結果および、総合的な考察を加えた研究成果報告書『中岳山麓窯跡群の研究』を刊行した。本研究は、調査や分析点数も小規模でテストケース的なものとなったが、考古学的手法と自然科学的手法を複合的に実施することによって、生産技術や流通について有効な結果を得ることができたと言え、今後発展的に研究をすすめる予定である。
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Archaeology from the South
巻: 3 ページ: 269-278
巻: 2 ページ: 279-287