これまで、地理学の研究対象を、「空間そして地表面の特定の場所に位置づけられる事象」と「ある事象が位置することである特性を帯びる場」として定義し、系統地理学が前者を、地誌学が後者をそれぞれ対象とするアプローチであると整理できるとした。 この前提の上で、既存の地理学の体系を再検討することを試みた。経済地理学や文化地理学といった分野と並んで系統地理学に位置づけられてきた都市地理学と農村地理学の対象である都市と農村は、ある場所に位置づけられる事象ではなく、ある事象が位置することである特性を帯びる場である。都市と農村は、地誌学の対象であるアジアやヨーロッパと同様、ある指標でもって定義される領域であり、多様で独自の事象が位置することでそれぞれ都市的、農村的性格を有する場として捉えることができる。その意味で、都市や農村を対象とする場合、ヨーロッパなどを対象とすると同様、地誌学のアプローチが妥当であるといえる。 続いて、系統地理学における「特定の場所に位置する事象」へのアプローチを、既存の地理学研究の実践をもとに整理することを試みた。そこでは、そうした事象を「景観」と「地域」を用いて整理して記述し、「自然環境」、「伝播(イノベーションの受容)」、「主体(個人と集団)」、「距離」、「時間(変化)」、「流動」から説明しようとしてきたことが明らかとなった。このフレームワークの中に、従来の地理学における基本的な概念、用語を位置づけることで、個々の概念、用語の関連づけが可能となる。 地理学における記述と説明を整理したこのフレームワークに基づく教科書を作成中である。
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