研究課題/領域番号 |
25580174
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
出田 和久 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (40128335)
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研究分担者 |
石崎 研二 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (10281239)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 前方後円墳 / GISデータベース / 地域性 / 古墳時代 / 考古地理学 |
研究概要 |
今年度は、まず『前方後円墳集成』(山川出版社)を基礎にデータベース化を進めた。データ入力は、当初予定した関東・四国地方に加えて中部・東北・中国地方についても主要部分は終了し、入力データのチェックと新資料によるデータの追加・更新を残す程度と順調に進んだ。また、史跡指定を受けたものを中心に新たに発見された前方後円墳の情報を追加したほか、『集成』刊行後の発掘調査報告書等により補充を進めている。なお、データ項目は、既に構築した近畿地方と九州地方の前方後円墳データベースとの整合性を考慮し、これらとほぼ同じとした。 また、各地域の主要前方後円墳について立地や現況を中心に現地調査をした。調査は研究分担者および連携研究者の尽力もあり、当初予定の関東・四国地方のほか中国地方についても実施した。調査対象は築造時期、規模、副葬品等の特色、立地などを考慮して選定し、GPSによる正確な位置情報取得と現況写真撮影を行ない、立地地形等の観察を行なった。この結果、その立地や築造時期、規模などに地域差があることを確認した。例えば、四国の積石塚型の前方後円墳は、半数(11基)が高松市の石清尾山古墳群に、大半(20基)が讃岐中部から西部という、ごく限られた地域に分布する。さらに、そのほとんどが標高100~200mの丘陵の尾根上端部に位置することは改めて注目される。対岸の中国地方にある山口県萩市見島の見島ジーコンボ古墳群も積石塚の群集墳として著名であるが、この中に前方後円墳は含まれない。この他の地域の積石型前方後円墳は、対馬のものが知られているが、小規模であり、その他は長野県などに少数分布するのみである。この独特の墳丘がきわめて限定された地域で採用されていることは、在地勢力の存在との関連をうかがわせる。 GISデータベース化は分布論的アプローチには利便性が大きく、有意義であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『前方後円墳集成』を利用したデータ入力は、本年度予定していた関東・四国両地域以外の東北・中部・中国地方についてもほぼ入力が終わり、全国のデータがほぼ揃うなど予定以上に順調に推移した。これは、データ入力を効率的に行なうにはある程度習熟することが必須であることから、継続して入力にあたることができる学生をアルバイトとして雇用したことが寄与したと思われる。今後は『前方後円墳集成』刊行以降に調査されたり、新たに発見されたりした前方後円墳のデータの補充を進める段階となっている。 また、今年度の調査は各地域における対象を事前に絞り込み、分担者および連携研究者の積極的な協力を得て当初予定以上に実施できた。各地域の前方後円墳に関する新資料(発掘調査報告書)の収集、関連文献などの目録作成はほぼ予定通り進行した。 入力したデータをもとにして、古墳の形態に関する数値や内部構造・主体、副葬品等に関する属性の地域的・時期的な分布状況など、また分析のために取り上げるべき有効な属性の検討を進めている。しかし、当初予定していた前方後円墳の暫定的な類型化は、必ずしも十分に行えていないことから、若干の遅れが生じている。 以上のようなことから、全体としては「おおむね順調に進展している」との評価が適当と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
構築するGISデータベースは、既に構築の終了している近畿・九州地域のデータベースとの整合性を考慮して、入力項目は絞り込まずに、これらとほぼ同一とすることが適切と判断した。 現地調査の対象として、国の史跡となっている前方後円墳、前方後方墳のほか、墳長と築造時期を基準に、構造や副葬品、立地に特色がありそうなものを選択した。地域により墳丘の規模別および時期別の度数分布に差があり、規模と時期に関してはより弾力的に選択し、時間と費用の制約がある中で可能なかぎり多くの古墳について現地調査を行なう。 なお、本研究の最終的な目標の一つとして、Webによる成果の発信を視野に入れていることから、その方法としてWebGISデータベースの構築もめざしており、そのための問題点についても検討を進めている。その結果、全国を対象に約5200基に及ぶ前方後円墳を網羅し、一度に検索・表示する際に一般的なPCやWebの利用環境に制約があるため、①表示スケールと表示の仕方及びその切替え、②検索可能なデータの種類とWeb上での操作性などについてさらに検討することが重要な課題となることが分かった。 これらのことを踏まえて、本研究による前方後円墳WebGISデータベースに実装する属性項目や表示方法などについて、具体的な検討を当初計画より早め、試作をできるだけ早期に開始することが必要と考えている。
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