研究実績の概要 |
研究計画に従い,台湾を中心とした分析,朝鮮半島を中心とした分析に取り組み,それぞれに論文として刊行した。具体的成果として,前者については「戦前期台湾における日本食材の受容-工業統計表と台湾貿易四十年表に基づく推計-」エリア山口,第44号,51-65頁.(共著 荒木一視,林呈蓉)であり,後者については「戦前期朝鮮半島の食料貿易と米自給-主要税関資料による検討-」山口大学教育学部研究論叢,第64巻第1部,15-29頁.(単著)である。これに加えて,理論的な側面からの検討を,「食料の安定供給と地理学-その海外依存の学史的検討-」E-journal GEO,第9巻第2号,239-267頁.(単著)として刊行した。また,それらの内容は2014年7月の9th Korea-China-Japan Joint Conference on Geography(ARPINA, Pusan, Korea) や9月の日本地理学会(富山大学),2015年3月の日本地理学会(日本大学)等で発表した。 これらを通じて,従来指摘された台湾や朝鮮半島からの内地への米供給という単純な図式ではなく,朝鮮の内地向け米生産を支えるために大量の粟に代表される穀物が満洲などから輸入されていたこと,台湾の内地向け米生産を支えるために,同様にして米や小麦が輸移入されていたことがあきらかになるとともに,内地からこれら地域への食料移出も少なからぬインパクトをもたらしたことが解明されつつある。すなわち,本国と植民地間の枠組みで国内労働者への食料供給が実現できたわけではなく,東アジアやより広範なスケールでの食料貿易を通じてそれが支えられていたことが見通せてきた。
|