研究課題/領域番号 |
25580186
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
島村 恭則 関西学院大学, 社会学部, 教授 (10311135)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地方花柳界 / 花街 / 芸妓・芸者 / 文化資源化 / 全国俯瞰調査 / 民俗学 |
研究概要 |
本年度は、全国各地の花柳界に関わる文献の収集と分析によって日本列島各地で展開している花柳界の概況を把握するとともに、新潟、富山、石川、長野、岐阜、愛知、奈良、兵庫、高知、福岡、佐賀の各県所在の花柳界において現地調査を実施した。 これらの調査で得られた知見の主なものは、つぎのとおりである。①花柳界は、官官接待の廃止と顧客層の嗜好の変化を主要因として1990年代から全国的に急速に衰退し、その結果、現在、多くの地方都市で花柳界は消滅してしまっている。②しかし、一方で、株式会社を設立して芸妓の雇用、花柳界文化の振興をはかった地域、商工会議所を中心に財団を設立して花柳界を支援する制度をつくった地域が存在する。この場合、これらの動きに共通して見出せるのは、花柳界文化を文化資源としてとらえ直そうとする志向である。③また、これらの動向とは別に、かろうじて命脈を保っている花柳界が一部存在することにも注目させられる。この場合、こうした状況が今日においても可能になっている理由は、当該花柳界を支える地元の「旦那衆」の存在があることに求められる。④花柳界の存続と「旦那衆」の存在との間には、歴史的にもまた現在でも大きな関係があり、上記②で指摘した株式会社化や商工会議所による財団の設立においても、各地域の財界人(伝統的な「旦那衆」の位置に相当)がこの動きのキーパーソンとなっているのである。こうしたことから、各地方都市のいわゆる「旦那衆」に相当する階層が花柳界に理解を示しているかどうかが、花柳界の盛衰や文化資源化の動きを左右していると指摘可能である。 以上の諸点のほか、花柳界が地域の民謡の再編に大きな役割を果たしてきたことや、花柳界内部に豊富に存在する伝承知などについても、多くのデータを入手することができたが、これらについては、次年度の調査とあわせてあらためて論文の中でくわしく紹介する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に予定していたフィールドワークをすべて実施し(ただし、日程や先方の都合等による予定調査地の年度間での入れ替えはあり)、分析作業も予定どおり進めている。その結果、当該課題の解明のための知見を多く獲得することができた。そして、それらの成果のうちの一部を共著の著書である『地方都市の暮らしとしあわせ』(高知市刊)に発表するとともに、一般向けの成果公開として講演を1回、新聞コメントを2回実施した。以上のことから、本研究課題は、「おおむね順調に進展している」と自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度以降も、引き続き、現地調査を積み重ねる。2014年度以降に予定している調査地は、つぎのとおりである。札幌市すすき野、盛岡市八幡町、仙台市青葉区立町、酒田市日吉町、山形市七日町、笠間市笠間、木更津市富士見、厚木市飯山、熱海市中央町、静岡市清水区銀座、静岡市葵区常盤町、浜松市千歳町、安城市相生町、名古屋市中区丸の内、桑名市江戸町、小浜市三丁町、大津市柴屋町、徳島市富田町、高松市百間町、松山市大街道、長崎市丸山町、熊本市新町、那覇市辻。 これらの調査により、中央(京都・東京)の花柳界のコピーではない地方ごとに多様な花柳界文化の実態(「お座敷」の運営方法、芸事の内容、芸妓の育て方、検番や置屋の制度、旦那衆をはじめとする顧客との関係、地域文化との相互交流のあり方、など)を明らかにする。そして、この作業の蓄積にもとづいて、中央(京都・東京)の花柳界文化が持つ特権性、神話性を脱構築、相対化しつつ、日本の花柳界文化全体の厚みを明らかにすることが到達目標である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度は、現地調査の一部、および購入を検討していた地方花柳界関係文献の購入を、高知市史、福岡市史編纂事業など報告者が携わっている外部の研究プロジェクトの予算で執行できたこと、同様に、学内個人研究費や学部内の教員専用図書費によって、当該課題に関わる調査、文献購入も行なえたこと、調査協力者を派遣して実施しようとしていた現地調査について、当該調査協力者が本科研の研究計画と内容的に共通する部分のある研究計画にもとづいて別の外部研究費を獲得できたため、その部分を当該外部研究費によってまかなったこと、また格安航空券の利用などによって旅費を安く抑えることができたことなどによって、科研費の「節約」を行なうことができた。この「節約」分が「次年度使用額」である。 上記の理由によって当該「次年度使用額」を用意することができたため、これを有効に活用して現地調査の充実を図る。具体的には、科研採択決定段階での交付決定金額の減額により縮小を余儀なくされていた調査計画(科研申請当初の調査計画)に沿った調査(調査回数、調査日程の当初計画内容への回復)を実施する。また、予算規模への配慮から断念していた沖縄県那覇市の花街での現地調査も実施することとしたい。以上のように、本年度は、この「次年度使用額」を最大限に有効活用して、大きな成果をあげたいと考えている。
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