研究課題/領域番号 |
25580186
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
島村 恭則 関西学院大学, 社会学部, 教授 (10311135)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地方花柳界 / 花街 / 芸妓・芸者 / 文化資源化 / 全国俯瞰調査 / 民俗学 / 検番 / 舞妓 |
研究実績の概要 |
前年度までの実績を踏まえ、そこで抽出した論点についてよりインテンシブな調査による深い分析をめざした。実施した主な調査とそこでの論点は次のとおり。 1.松山市の花柳界は、他の多くの地方都市と同様に20世紀末にその勢いを衰えさせたが、2008年、新人芸妓2名の誕生を契機にNPO法人が結成され、この組織を中心に花柳界文化の再編成が開始された。本調査では、従前の「松山検番」と新たな組織としてのNPOとがいかなる論理と工夫によって接合されているか、また接合後、松山花柳界の自己表象はいかに行なわれているか、について明らかにした。 2.秋田市の花柳界は20世紀末に一旦廃絶したが、2010年代に入り、地域活性化を目指して起業された地元の会社組織によって「あきた舞妓」のブランドのもと花柳界文化の再創造が開始されている。その際、従前の花柳界自体は廃絶したものの、当時の関係者は芸妓も含めて存在しており、新たな花柳界文化の創造にあたっては、かつての花柳界との断・続をいかに行なうかが大きな課題となる。この点の実態を中心に調査・分析を進めた。 3.多くの地方花柳界の衰退傾向に対して、長崎市の花柳界はその生命力を維持し続けている。その社会的要因を分析すべく花柳界と地域社会との関わりについて調査した。その結果、長崎市では都市祭礼としての「くんち」がきわめて活発に行なわれているが、「くんち」での芸能の奉納を行なう踊町と長崎検番とが「結納」を交わし、芸妓が「町内の一員」となって芸能の披露を行なうことをはじめ、花柳界と地域社会との結び付きがきわめて密接であり、その存在を欠くと地域の伝統芸能や祭礼の実施に大きな欠落が生じるほどに花柳界が重要な位置を占めていること、これが一つの要因になって花柳界の存続が実現していることが明らかとなった。 以上と並行し、収集済みの各地の事例と文献を用いた全国的な比較分析作業も実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.本年度を含む3年間を通して、本課題遂行のために必要なフィールドデータと文献資料をほぼすべて集積することができた。 2.さらに、とくに本年度は、研究協力者(花柳界文化研究を専門とする博士課程の大学院生)を派遣して花柳界内部に深く入り込むかたちでの参与観察を行なうことができた。これにより、当初期待していた水準以上に深く厚みのあるフィールドデータ(松山市、秋田市、長崎市についてのもの)を入手することができた。 3.1・2のデータをもとに、全国比較の視点に立った分析作業を進め、「近代地方民謡の発生と花柳界、中央メディアの関係」、「地方花柳界再活性化にともなう『舞妓』の前景化」、「花柳界の生命力維持と地方都市祭礼/地域社会との関係」、「花柳界をめぐる新旧アクター間の接合を可能とする民俗論理としての『盃事』」などの論点を抽出することができた。 以上のとおり、成果を生み出すことができたので、「おおむね順調に進展している」と自己評価したい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの調査・分析成果をもとに、ドイツ・ミュンヘン大学において実施されるドイツ民俗学会・日本民俗学会共催シンポジウム「現代社会と民俗学」(2016年10月28~30日)において、研究代表者の島村恭則と研究協力者の谷岡優子がそれぞれ本科研の成果にもとづく口頭発表を実施する予定である。あわせて島村・谷岡ともにそれぞれ本科研の成果の最終とりまとめ論文の発表を実施する。なお、ドイツでの発表準備に際して必要となるデータ収集のための補足調査を国内で実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査費用の一部、および購入を予定していた地方花柳界関係文献の購入を、学内個人研究費、学部内の教員専用図書費等によってまかなえたこと、格安航空券やマイレージの利用等によって旅費を安く抑えることができたことなどによって、科研費の支出を抑制(=節約)することができた。この抑制分が「次年度使用額」である。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由によって当該「次年度使用額」を用意することができたため、これを活用して、科研成果にもとづく海外での研究発表(ドイツ民俗学会・日本民俗学会共催シンポジウム「現代社会と民俗学」(2016年10月28~30日、ドイツ・ミュンヘン大学にて))、およびその発表内容準備のための国内補足調査を実施する。海外での成果発表は、本科研の当初計画の段階では、経費捻出上の制約もあって予定していなかったものであり、科研費支出の抑制(=節約)によって「次年度使用額」を捻出できたことにより、はじめて実施が可能となったものである。制度の柔軟さによってもたらされたメリットを最大限に活用して海外での成果発表に臨みたい。
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