本研究は、予防的介入を視野に入れた効果的な再犯予防策を示していくことを目指し、特にこころの健康に焦点をあてたものである。受刑者の問題行動と精神的健康度の関連について検討することを目的とし、対象となる刑事施設における調査および介入を試みた。対象とした長期受刑者の精神的健康度について測定するとともに、問題行動(懲罰回数)、年齢および刑期執行年数との関連を明らかにした。こころの健康度の測定にはWHO-SUBI(The Subjective Well-being Enventory)を使用した。長期受刑者のこころの健康度は低く、精神的に疲労している状態であることが明らかとなった。また、主観的健康度と問題行動の頻回については強い相関が認められ、問題行動をコントロールするためには精神的健康度が課題となることが示唆された。問題行動を軽減することを目標とした再犯予防を検討する際、こころの健康度を高めるプログラムの提供が必要であると考えられた。そこで、本研究では、認知行動療法をベースとし特にGood Lives Modelの理論を取り入れたプログラムを策定し実施した。結果、プログラム参加者の主観的健康度は向上し、特に幸福感や精神的なコントロール感、社会的な支えについては有意な改善がみとめられた。この結果は、本プログラムの目標と合致するものであると考えられる。また社会的な支えを感じられることにより社会生活における自信が高まることが予想され、出所後の社会生活において不安を抱ええるだけではなく、自身のコントロール感が増すことによる「安心感」が得られ始めることが推測された。長期受刑施設においては、施設内での生活が長期化しており、円滑な社会復帰が大きな課題である。その点において本研究は、受刑者のこころの健康度の低さを明らかにし再犯予防のために主観的健康感への介入が重要であることを明らかにしたといえる。
|