本研究は、不当利得法の見通しのきかなさを打開する手段として、英仏法において、ドイツ法の影響を受ける以前に、諸不当利得法がどのように体系的に位置づけられていたかを歴史的にたどることが有用なのではないか、という着想に基づくものであった。こうして、初年度から、そこにおいて鍵になると目された「準契約」という概念を軸にして、作業を進めてきたが、英仏法の双方を対象とすることは困難を伴い、英法については、研究期間の全体を通じて、課題の大きさを改めて認識するばかりであって、十分に作業を進めることができなかった。 かくして、平成28年度には主に、フランス法に即して、昨年度までの作業を進展させた。これまでの作業をまとめると、フランスの「不当利得」法には様々な分野が含まれるところ、どれがそのような分野にあたるかを列挙したうえで、しかしそれらにはかなり性質の異なるものが混在していることから、それらの「腑分け」を試みた。契約の無効・取消しに伴う給付の巻き戻しは容易に別ジャンルとすることができ、これについてはそれ以上扱う必要がなかったが、その余についても、ドイツ流の侵害利得・求償利得等の枠組みに頼ることのない整理を心掛けた。さらに、そのように整理された各ジャンルが、どの時期にどのような経緯で「不当利得」法の問題として観念されるようになったのか、そのことと「準契約」という概念とはどのように交錯するかについて、検討を加えた。
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