本研究は、国際政治学を専門とする申請者が、竹島・独島をめぐる領土紛争について、相手国に対する自国の譲歩や強硬的施策を日韓の両国国民がどのようにとらえるのか、明らかにするものである。サーベイ実験を2014年11月に実施し、以下のような研究成果を得た。 第一に、日韓の間の領土紛争を国際司法裁判所に持っていき解決する、または、二国間の直接交渉で解決するのかに関して、両者の間に顕著な差がないことがわかった。これは、通説からするときわめて意外なことで、大きな発見である。というのも、国際司法裁判所は、当該紛争当事国政府が対外的に妥協(コンセッション)を行うにあたり、国民の反対を抑制する中和機能を持つとされてきた(Allee and Huth American Political Science Review 2006)。不利な結論があっても、それが国際司法裁判所という中立機関が出したものである以上、それに従うという考え方は日本の調査対象者には浮かばなかったということになる。 第二に、国際司法裁判所の判定結果(1:係争領土は日本のものであるとの裁定、2:係争領土が韓国のものであるとの裁定、3:係争領土については判断ができず、両者の話し合いを促すもの)について情報を得た後、日中の懸案事項である尖閣諸島について、領土紛争の解決の在り方を訪ねた。これは、中立的な司法裁判の帰結が、他国との領土紛争にも波及適用されると一般国民が類推するのかを検討する研究と言える。今回の実験の結果、波及効果の存在が確認できた。すなわち、日韓で出された結果が、日中でも同じようになると類推され、その結果として国民の態度表明に変化が生じていた。
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