研究課題/領域番号 |
25590040
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 長崎県立大学 |
研究代表者 |
荻野 晃 長崎県立大学, 国際情報学部, 教授 (10405566)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カーダール退陣 / ペレストロイカの輸出 / 共闘関係の瓦解 / パトロン・クライアント関係 |
研究概要 |
1989年のハンガリーの体制転換の国際環境に関して、ソ連との関係に焦点をあてて考察した。ブダペストでの一次史料の収集と精読の結果、1985年3月のゴルバチョフのソ連共産党書記長就任から1988年5月のハンガリー社会主義労働者党書記長カーダールの退陣までの二国間関係、とくに指導者の個人的な関係の重要性を強く認識した。そこで、平成25年度の研究では、体制転換のスタート時点を重視した。 具体的な研究成果として、改革に及び腰となり深刻化する経済危機に対処できないカーダールが退陣に追い込まれるプロセスで、ゴルバチョフがハンガリーの党指導部の内部状況にいかなる影響を及ぼしたのかを、論説として『法と政治』(関西学院大学法政学会)第65巻第1号、2014年5月にまとめた。 論説の概要と成果は、以下のとおりである。 社会主義労働者党では、ソ連の軍事介入に至った1956年のハンガリー事件の経験、教訓にもとづいて、1960年代の初頭までに「共同戦線党」ともいえる内政、外交両面での指導部内での共闘関係が形成された。党指導部の共闘関係は、その後のハンガリーの内政、外交両面での路線を規定することになった。しかし、1985年にゴルバチョフが登場し、歴代のソ連指導者と異なる新たな東欧諸国との関係を模索すると、社会主義労働者党内の共闘関係が瓦解し、孤立したカーダールは退陣を余儀なくされたことを研究を通して実証できた。具体的には、先行研究で述べられた内容と異なり、ゴルバチョフにとってカーダールは連携すべき対象でなく、あくまで最初に退陣させる東欧の指導者であったことが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成25年度の段階における研究では、ハンガリーの体制転換の国際的な背景を、1885年のゴルバチョフのソ連共産党書記長就任から1989年の体制転換までの4年間の対ソ関係を軸に検証する予定であった。研究を進めていく中で、1988年にハンガリー社会主義労働者党書記長カーダールが辞任を迫られた経緯を重点的に分析する必要性を感じた。そのため、あえて1989年の体制転換の序幕ともいえるゴルバチョフ登場からカーダール退陣までの3年間のソ連・ハンガリー関係に焦点をあてて考察した。 研究の成果を論説『法と政治』(関西学院大学法政学会)第65巻第1号、2014年5月にまとめる過程で、1989年の体制転換が進行する中でのハンガリー外交、ハンガリーをとりまく国際環境への理解を深めることができた。同時に、平成25年度の本研究は、これまで取り組んできた1956年以降のカーダール時代のハンガリー外交史を総括するための重要な契機となった。 しかしながら、1989年の春にカーダールの後任の書記長グロースが失脚して、体制転換への動きが加速する段階でのソ連との関係の核心部分に関する考察が、今後の研究課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究計画では、1989年のハンガリーにおける体制転換が進行する中で発生した東ドイツ市民のオーストリア出国をめぐる問題に焦点をあてる。 体制転換への動きが加速する中で、ハンガリーは1989年の春に隣国オーストリアとの国境に張りめぐらせていた鉄条網を撤去した。その結果、同年夏に西ドイツへの亡命を希望する大量の東ドイツ市民がハンガリーに殺到した。従来、ハンガリーと東ドイツの間では、自国に流入した西側への逃亡をはかる市民を逮捕、送還する協定が結ばれていた。しかし、ハンガリーは西ドイツの支持、支援を受けて、協定を破棄して東ドイツ市民をオーストリアへ出国させることを決定した。 東ドイツ市民の出国をめぐる政策決定の分析に際して、はじめに英語、ドイツ語での二次文献を精読して、研究動向の把握につとめる。その後、9月には、ブダペストで資料収集を行う。また、体制転換当時の国際環境に詳しい現地の研究者に教示を願う。 帰国後、現地で収集した資料を検証した後、研究成果をまとめる作業に入る。予定では、平成27年4月に『法と政治』(関西学院大学法政学会)に投稿する論説を完成させる。同時に、平成25年度に研究課題として残った1989年当時のハンガリー・ソ連関係の検証も進めていく。 平成27年度には、カーダール時代末期から体制転換当時までの隣国ルーマニアとの関係について、資料の収集と分析を行う。具体的には、ルーマニア国内のハンガリー系少数民族の問題を争点とした二国間の対立を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度の研究課題として、1989年の体制転換当時のハンガリーの東ドイツ市民のオーストリア出国に関する問題で論説を作成する。論説作成に必要な現地調査と英語の参考文献を購入するため。 平成26年9月にブダペストのハンガリー国立公文書館で一次史料の収集を行う計画である。帰国した後、史料の精読、論説の作成の過程で必要となる英語ないしドイツ語の二次文献を購入する予定である。
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