研究課題/領域番号 |
25590046
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
岡野 芳隆 高知工科大学, マネジメント学部, 講師 (20513120)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 実験経済学 / 集団と個人の意思決定 / 交渉 |
研究概要 |
地域紛争や国際的環境破壊などの今日我々が経験する多くの問題の核心は、関係者間における「利害」と「行動」の調整であり、通常それは交渉により行われている。本研究は、実験環境で実際に被験者に交渉を行わせ、「利害」と「行動」の調整がどのように行われるのかを観察・検証することを目的とする。さらに、そこでの知見から交渉理論の理論的再検討を試みる。このような新たな交渉理論からの交渉プロセスの設計は、現実の紛争問題や環境破壊問題の交渉を通じた解決に役立つ可能性がある。 平成25年度は社会心理学の分野で発展してきた「先制攻撃ゲーム」の実験を行った。先制攻撃ゲームは、政治学で戦争の原因のひとつと扱われてきた先制攻撃という現象に注目し、これを一種の経済ゲームの形にしたものである。参加者が二人一組になり、実験者から元手(例:500円)を与えられて実験開始となる。参加者は制限時間(例:30秒)以内にPC画面上に表示される赤いボタンを押すか否かを決定する。ボタンを押したほうは元手から少額(例:100円)が減額され、押されたほうは多額(例:400円)が減額される。結果は30秒後に開示されるが、ボタンは早押しで決まるため、「お互いに押した」という結果は存在しない。お互いに押さなければ元手の金額がそのまま実験報酬となる。先行研究では参加者の約3割から5割がボタン押し行動を行うことが報告されている。 本研究では、プレーヤーのタイプを個人と3人1組の集団に分け、個人対個人、集団対個人、集団対集団の実験を行った。集団はボタンを押すかどうかについて5分間集団内で相談(利害と行動の調整)することができる。結果は以下のとおりである。(1)個人対個人の攻撃率、集団対集団の攻撃率、集団対個人の個人の攻撃率はほぼ同じで4割程度であった。(2)集団対個人の集団の攻撃率は7割を超えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究実施計画では、集団内でどのような交渉が行われているかの実験デザインをし、それを実施する計画であった。その目標を達成し、またその実験結果を2014年2月にニュージーランドで行われた国際学会The 2014 meeting of the Asia-Pacific Economic Science Associationで報告した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度に行った実験において集団が具体的にどのような交渉を行っているのか検証する必要がある。実験中に行われた会話を録音しているので、この会話をどのように分析するかを検討していく必要がある。また、理論研究にも取り組み始める必要がある。新たな交渉理論の構築である。特に「利害」と「行動」に関して提案の仕方の違いによる交渉結果の違いを検討することが重要である。提案の仕方の違いとして、3種類の可能性が考えられる。一点目は、自分と相手の行動の提案である。これは、これまでの交渉理論と同じように、全プレーヤーの利得を提案していることに等しい。二点目は、自分の行動のみに関する提案である。三点目は、相手の行動のみに関する提案である。例えば囚人のジレンマ状況において、相手に協力するように求めるというようなものである。二点目、三点目のような交渉プロセスはこれまでの経済理論では考えられてこなかったものであり、重要な理論研究に発展する可能性がある。
|