研究課題/領域番号 |
25590066
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
長峯 純一 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (80189159)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 公共インフラの維持管理 / 自治体財政 / 人口減少社会 / 財政の持続可能性 / 震災復興 |
研究概要 |
初年度は,公共インフラの整備および維持・更新の費用とその自治体財政への影響について,人口減少を想定した上での試算および検証を行うという,本研究の関心と目的を持ちながら,一つは,先行研究のサーベイを行った。そして二つ目として,阪神間自治体の公共インフラ整備と維持・更新が財政に与えている影響について,そしてまた復旧事業が本格化しつつある東北被災地において,人口減少と財政の持続可能性を踏まえたインフラ整備が行われているかについて,ヒアリング調査とデータ収集を行った。いずれも有益な情報の蓄積を行うことはできたが,論文等の研究成果としてまとめるには至らなかった。 これらの研究を進める過程で,被災地では公共インフラの一つである海岸堤防(防潮堤)が,産業復興や景観を阻害するとして,住民から反対の意見が強まるという状況に遭遇した。これはインフラ整備計画を策定するという合意形成の段階で問題が噴出したということであった。あるいはまた,公立病院や災害公営住宅といったインフラ整備では,公共工事の入札の不成立や工事費用の上昇という,やはり入口時点での問題が発生した。インフラの維持管理・更新の問題へ行く前に,被災地ではインフラの計画を立てる段階から問題が発生していたのである。そのため初年度の当研究も,住民と行政による復興まちづくりとその手段としてインフラ整備のあり方へと,否応が無く関心が向くことになり,この点での研究成果が学会発表と論文執筆につながった(13.研究発表の項を参照)。 以上のような合意形成や事業着工における問題・課題を認識しながら,インフラ整備に向けての情報・知見を蓄積することができたが,これを2年目の研究において,本来のテーマである人口減少と財政持続性を踏まえたインフラ整備と維持更新のあり方へと展開させていくことを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,初年度において,1.先行研究・先進自治体による試算方法の検証,2.過去の被災地の公共インフラ復旧と財政への影響の検証,3.東北の被災地における公共インフラ復旧・復興事業の実態把握,の達成を計画していた。そのうち,増えつつある公共インフラの維持管理・更新をテーマとした研究についてのサーベイを進めながら,気仙沼市におけるインフラ復旧事業の進捗状況と今後の財政への影響見込みなどについてヒアリング調査を行った。また被災地でのインフラ復旧事業として巨大防潮堤の建設が,財政問題だけでなく,復興まちづくりや産業復興,また景観や環境保全といった観点から争点になりはじめ,インフラ復旧と復興まちづくり・地域再生という観点で情報収集と研究を行った。 上記1.~3.について,2.の財政への影響の具体的な分析・検証を除けば,それぞれ情報・研究をそれなりに蓄積することはできたが,調査対象としていた中越市や奥尻島への訪問は実施できず,また阪神間の自治体など財政データがある程度蓄積しているところでの具体的な分析・検証に取りかかることもできなかった。多くの情報は得ながらも,具体的な研究成果につなげるためには,公共インフラの対象を限定した方がよいこと,また分析手法もケーススタディの特色を強めた方が,先行研究との差別化を図りながら,政策的な議論ができるという見通しを得たことが,ある意味で初年度の研究の到達点でもあった。
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今後の研究の推進方策 |
公共インフラには,道路・トンネルといった社会資本から学校・病院といった公共施設まで,多くのものがある。先行研究のサーベイおよび被災地調査をした結果と,これまで私が関わってきた地方自治体や被災地との関係を鑑みると,特定のインフラに対象を絞ったケーススタディ的分析から研究成果を出せるとの感触・見込みを得るに至った。マクロの公共投資データを用いた計量分析は行われつつあるが,自治体のミクロのインフラ・データとアセット・マネジメントおよび財政の持続性をつなぐケーススタディはまだ行われていない。今後はその方向で具体的な研究成果と政策提言を得ることを目指す予定である。 2年目は,2012年度に阪神間自治体を対象に簡単な検討をしたことのある上下水道のインフラに対象を絞りながら,自治体データを対象に実証分析を進めることを意図する。私自身が上下水道関係の委員会座長を務めている兵庫県西脇市からの情報提供を受けながら,典型的な人口減少地域である当地のアセット・マネジメント計画と地方公営企業会計・普通会計との関係を踏まえた財政シミュレーション分析を行う予定である。並行して初年度に実施できなかった中越市や奥尻島へのヒアリング調査も行いながら,被災地域・全国の人口減少地域に研究を応用する手法を確立することを目指している。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は,出張調査の時間を十分に確保することができず,中越市および奥尻島へのヒアリング調査を実施することができず,また東北被災地への出張は,他の用務の出張と併せて行うことにより,旅費の一部を節約することができたため,一部研究費を繰り越すことになった。 平成26年度は,昨年度,現地調査およびヒアリング調査をできなかった場所への出張を,計画的に時間を確保することで実施する予定であり,未使用額は旅費に充てる予定である。
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