研究課題
初年度に構築されたデータベースをもとに分析を進めた。情報源としては『江戸商家・商人名データ総覧』全7巻(2010年刊行)を用いつつ、必要に応じて周辺資料を参照した。個々の商人の同定作業を経て、4000件ほどの個票データベースを構築し、それをもとに、個々の商人の存続期間や株の継承原理、業種と店舗分布、番組編成の基準など、江戸商人の実態解明につながると思われる切り口を、さまざまに工夫して分析を加えた。その結果、平均存続年数が15.7年と一代にも満たない短さで参入と退出を繰り返す大店の商人たちの様相が浮かび上がり、通説のイメージと大きく異なる不安定さが検出された。かつ株の相続は金銭を媒介とした譲渡が半数を占め、血縁原理と程遠いことも判明した。さらに、それぞれの商人の特性を地域分布など他の要素も勘案して分類してゆくと、江戸の商人は以下の三類型にまとめられるという結論に至った。一つめは全域型。江戸全体の店舗数の八〇%を占める。扱う商品は米や炭薪などの生活必需品。利益率が小さく、店舗の参入退出も激しいので存続期間は短命。江戸の全域へと広く店舗展開し、同業者仲間で番組を編成して担当する地域を分割する地区割り営業を特徴とする。二つめは都心型。店舗数シェアは一〇%ほど。扱う商品は薬・呉服・小間物などの贅沢品。利益率が大きく、店舗の参入退出は比較的ゆるやかなので存続期間は長寿。狭い日本橋地区に集中立地し、同業者どうしで激しく顧客を奪い合う自由競争を特徴とする。三つめが特化型。店舗数シェアは一〇%ほど。武家が顧客の金融業(札差)と人材斡旋業からなり、札差は長寿だが他は短命。蔵前など武家相手の営業に便利な特定地域に立地する。武家の町江戸に特化した特殊業種と言えよう。これらの類型分けをベースとし、なぜこのような分布となったのか、個々の店舗の規模や特性に着目して原因の究明を試みた。
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Department of Social Engineering, TITECH Discussion Paper Series
巻: 2015-01 ページ: 1-21
Cliometrica
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Mathematical Problems in Engineering
巻: Vol.2014, Article ID 434252 ページ: 1-9
10.1155/2014/434252