本研究の目的は、競争戦略論における「因果関係」概念を再検証し、新たな方法論を提示することにある。本研究では、様々な研究領域の広範な文献サーベイを通じて、「偶然性」を含む因果関係概念に基づく戦略論の理論枠組みを構築することを試みる。その上で、日本・アジアNIEs、中国の多国籍企業を対象としてグローバル競争における競争優位性獲得についての実証分析を行う。本研究の3年間の研究計画の進行プロセスは下記の通りである。当初の1年半が理論フレームワークの確定、続く半年がケース分析のための資料収集、最後の一年が実証分析である。 今年度は、主にフィールドワークに基づく実証分析を行った。具体的には、中国における日系製造企業5社(電源開発株式会社、大金(中国)投資有限公司、電装(中国)投資有限公司、松下電器(中国)有限公司、永旺(中国)投資有限公司中国本社)でインタビュー調査を行い、中国市場における戦略プロセスの因果関係について分析した。昨年度までの研究期間内において、台湾における日系企業の技術移転、東南アジアにおける日中二輪車企業の競争、国内繊維アパレル産業集積の優位性維持、製造業における日中間の技術移転等の研究成果を発表し、本研究と関連するアジア域内のグローバル競争についての様々なケースを蓄積してきたが、今回新たにインタビュー調査に基づいて中国日系企業の戦略プロセスに関する実証研究を行ったことは、本研究にとって大きな意義があった。この実証分析の成果の一部は、国際シンポジウム報告、および論文として発表した。他方で、昨年度に引き続き、理論枠組みに関する論文の執筆を行った。
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