研究課題/領域番号 |
25590110
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
井上 信宏 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (40303440)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地域包括ケア / 高齢者介護 / 生活支援 / 生活保障 |
研究実績の概要 |
本研究は、長野県松本市をフィールドにして、高齢者介護における地域包括ケアシステムの構築を支援しながら、その取り組み課程を素材に地域包括ケアシステムの構築モデルを考えることを目的としている。それを実現するために、地元の自治体、福祉専門職、地域住民組織、他大学の研究者への働きかけを行ない、高齢者介護の社会学習を重ねながら、地域や専門職のネットワーク構築を試みている。 2014年度の研究成果は、第一に、関係者のプラットフォームとして名簿を作成した「まつもと・地域包括ケアシステム研究会」を6月に開催したことにある。上記のメンバーを一堂に会して、松本市における地域づくりと地域包括ケアシステムの関係、在宅医療の課題等について意見交換を行なった。第二に、上記の研究会をもとに、医師会や行政機関、在宅復帰支援を行なう担当者らへの個別のインタビューを行ない、松本市の地域包括ケアが抱えている課題をあぶり出した。 第三に、他地域の取組みの調査や意見交換を実施した。9月には、泉北ニュータウン、白鷺団地の聞き取り調査を行い、公営住宅やニュータウンにおける高齢者を対象とする生活支援サービスの取組みや空き家を活用した住まい開発の取組みを調査した。2月には、山形県鶴岡市の保健師活動、在宅復帰支援を行なう街の保健室の取り組み、地域と大学の連携の取り組みなどを調査した。3月には、三重県桑名市の社会福祉士らの研究会へのヒヤリング、金沢大学で開催された高齢者への「聞き書き」の取り組みシンポジウムに参加した。こうした先進地域の取り組みから、在宅高齢者の生活課題をあぶり出し、それに対する支援を行なう場合に、どのような制度的課題があるかを考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、研究者が当事者の取り組みに働きかけることで、地域包括ケアシステムの構築を推進するプラットフォームを作り出し、そこで意見交換や研究を重ねる中で当事者間の協働の経験値を高めながらシステムづくりをするプロセスを分析する方法をとっている。 当事者間のネットワーク構築のための作業を行った昨年度の成果を受けて、本年度は具体的な研究会や意見交換の場を設けることになった。本年度の研究目標の到達度は「おおむね順調に進展している」と評価する。その根拠は以下の通りである。 第一に、リストアップされたメンバーを一堂に会した研究会を開催し、意見交換を行なったことにある。この研究会をきっかけとして、医師を含む在宅医療関係者との関係を構築し、そこへのヒヤリングを行なうことで松本市の在宅復帰支援の現状を知ると共に、その情報を福祉関係者、行政関係者と共有することができた。 第二に、松本市内で先進的に福祉のまちづくりを取り組んでいる地域のリーダーと意見交換を行ない、域内の医療機関と地縁組織の意見交換の中で構築されつつある具体的な連携の姿を調査したことにある。特に松本市の行政区を基盤とする「地域づくり政策」のなかで、健康と福祉をテーマとするまちづくりを立ち上げるプロセスと課題が見えてきた。 第三に、他地域の取り組みを調査する中で、集合住宅における高齢者の生活支援の難しさが見えてきた。関係づくりを用意するための空き店舗を活用したレストランの取り組み、NPOによる補助金を活用した生活困窮者の自立を視野に入れた居場所づくりなどは、具体的なサービス提供のためのしくみの作り方がわかり、居住と近いところで提供される生活支援の重要性が確認された。サービスが用意されてもその活用にまで乗り出すことの困難から、地域住民の協力を得ながら進められる手間をかけた声かけの重要性などが分かってきた。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度の研究は、松本市の地域包括ケアシステムに直接関わるコアメンバーの顔つなぎのための研究会を実施し、そのなかで課題を聞き出す作業を行なった。また、各地域の取り組みを調査する中で、松本市とは異なる地域課題の中にある地域が、地域課題を発見、解決していくしくみ作りを検討した。 研究の最終年度の2015年度には、研究会や意見交換会を適宜開催し、松本市の地域ごとのケア課題をヒヤリングする。なかんずく、専門職同士の関係構築に向けた働きかけを試みてみたい。先進事例の取り組みも継続してヒヤリング調査を行なうことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、外部講師を招聘した研究会の開催を予定していたが、研究の途上でまずは域内の意見交換を重ねることで当事者間の関係性を構築した方がよいと判断し、研究会や意見交換については、謝金支払いを行なう必要のない方々に参加していただくことになったためである。 最終年度計画では、外部講師を招聘した意見交換会の実施を考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
研究会の基盤ができたことから、外部講師の協力を得た意見交換会の運営を考えるなどして、外部の経験知を導入する機会を用意したい。
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