アジア非一神教世界の知・知の体系にもとづいた理論構築に取り組んだ。仏教、ヒンズー教、儒教、道教の古典について、本研究課題と関連づけた最終整理を行った。そのうえで、台湾、中国、カンボジア、日本において関連する実地調査を行うとともに、調査結果の検討作業を、オランダ、カンボジア、ネパール、中国、台湾および日本の関連研究者との間で行った。なお、予定していたネパール調査は地震の影響で実施不能であったため、カンボジア調査に統合して依頼実施するという代替措置をとった。また、中国調査は諸般の事情から限定的なものとなった。 現地調査と結果検討から得られた知見は次の通りである。(1)アジア非一神教世界にほぼ共通する特性として、根源的な多様性を基本におき、万物を流転するものと捉えるということがあり、その多様性と流動性は、概ね両義的関係を軸として構築されていることを明らかにできた。(2)新たな事物の生成や創造は、両義性に示されるような相異なるものの融合・習合から生み出されると概ね把握され、この生成や創造については、偶然の契機を重視し、共存と調和の実現を目指すものとなっていたことを解明できた。(3)外在的な法や規範ではなく、内面的な自律や自制に重きを置いていたことを指摘できた。(4)両義的世界、流転する世界、転換する世界、曖昧な世界の重要性を明らかにできた。さらに、明瞭さと曖昧さ、静と動、加えて欧米社会学とここにいうアジア社会学は相互補完してこそ意味をもつことを解明できた。(5)アジアからの社会学を考えるとき、「無常、化身、渾沌、規矩、和諧、作法、縁分、融合、習合」という一連の概念が重要な意味をもつこと、あわせて行動レベルでは「邂逅、自覚」に着目する必要があることを明らかにできた。
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