研究課題/領域番号 |
25590117
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
澤田 千恵 県立広島大学, 保健福祉学部, 准教授 (20336910)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 医療化 / 精神科医療 / 過剰診断 / 過剰投薬 / 向精神薬による被害 / 社会的転帰研究 / 精神医療サバイバー / 薬害被害者の語り |
研究概要 |
精神科医療における過剰診断や過剰投薬、漫然処方等の不適正な治療による被害実態を明らかにするために、被害当事者への聞き取り調査を実施した。調査を始めるにあたって、研究班を組織した。処方内容と転帰との関係性を明らかにするために、中川聡氏(NPO法人薬害研究センター、精神医療被害連絡会代表)と野田正彰氏(精神科医、元関西大学教授)に分担研究者に入ってもらった。また、薬害当事者への支援や、薬害を生み出さない当事者支援について検討するために、大下由美氏(県立広島大学准教授)にも参加していただいた。 調査計画書を作成し、所属大学の研究倫理委員会での承認を得た上で、聞き取り調査を開始した。本年度は5名の方々に対して聞き取り調査を実施した。インタビューガイドに沿って以下の項目を時系列でお伺いする方法をとった。「1.治療経過(処方内容、診断名、体調の変化について)」「2.処方についての説明と服用の影響」「3.社会的転帰について」「4.服薬に関する悩みについての相談先や情報源」「5.減断薬の過程について」「6.精神科での治療や向精神薬に対する認識や評価」。これらの項目にはさらに詳細な項目が設定されている。 治療を通じての転帰(病状・体調の変化ならびに社会的役割や社会適応の変化)と処方内容との因果関係を明らかにするため、過去の処方歴がわかる資料(カルテ、レセプト、お薬手帳等のコピー)を提供していただいた。 聞き取り調査の内容は調査協力者の同意を得た上でICレコーダーに録音し、個人情報保護契約を交わした民間業者にテキスト化を委託した。テキストデータに関しては、時間軸に沿って小見出しを付して内容整理を行った上で、協力者に随時郵送し、内容のチェック(修正や追加等)をお願いしている。それらデータの分析に関しては次年度以降の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度はパイロット調査の実施を目標としたが、実際に聞き取り調査を実施したところ、インタビューガイドによる聞き取りが順調に進むことがわかったため、5名の方への聞き取り調査を行うことができた。人数的にも、内容的にも、調査研究の目標を達成できていると評価できる。ただし、聞き取り内容をテキスト化し、その内容をチェックする作業に予想以上の時間を要することがわかった。そのため、分析作業にまでは至っていない。今後、聞き取り調査を並行しながら、分析作業についても研究分担者と連携して進めていくことが課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、精神医療被害連絡会等、精神医療被害者団体を通じて調査協力者を広く募集し、聞き取り対象者を拡大する予定である。 研究を遂行する上での課題として、聞き取り調査を実施するインタビュアーが少数であること、聞き取り対象者は全国に広がっていること、詳細な聞き取り内容であるため聞き取り調査やデータの整理や分析に時間を非常に要すること、調査にかかる費用(旅費、謝金、テキスト化委託費等)が想定以上にかかっていること等が挙げられる。 今回の調査では被害者数の推計ではなく、事例の詳細な分析を通じて被害構造のモデル化を目指しているため、対象人数を増やすことよりも、1事例ごとの丁寧な分析と事例のパターンを抽出することを目標とすることを再確認し、今回の調査をもとに、将来的により多くの被害事例の聞き取りを行っていくことを目標としたい。 なお、自死遺族の方々への聞き取り調査についても当初計画に入れていたが、上記の理由により、今回は被害当事者への調査だけで精一杯な状況である。精神科での治療により悪化し自死された方々に関する調査は、存命している当事者への聞き取り内容とはまた内容が大きく異なるため、同じ研究の中で扱える範囲を超えているかもしれない。この点に関しては、研究分担者とも相談の上、検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
聞き取り調査を実施するにあたり、所属大学の研究倫理委員会の承認を得る必要があり、委員会の審査が隔月のため、承認までに時間を要した。そのため、調査の開始が遅れたことと、調査自体が非常に繊細な内容であるため、協力者への説明にも時間がかかることなどから、数多くの調査をこなすというわけにはいかず、また25年度はパイロット調査ということで慎重に進めていたため、調査旅費や人件費等として若干余らせる結果となった。 26年度は聞き取り調査の対象者15名ぐらい実施できればと思っているので、調査旅費、謝金、インタビュー記録のテキスト化(業者への委託費)などの費用として、25年度分から引き継いだ助成額を使用したい。
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