研究課題/領域番号 |
25590119
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
大岡 頼光 中京大学, 現代社会学部, 准教授 (80329656)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 政府への信頼 / 家族主義 / 脱家族化 / 税金 / 裕福な高齢者 / 少子高齢化 / 保育・就学前教育 |
研究概要 |
スウェーデンは育児費や教育費を家族が負担する「家族主義」から転換し、育児費・教育費の公的負担を増やし家族負担を減らして、少子化に歯止めをかけた。平成25年度はスウェーデンの福祉・教育政策の論理と社会的背景を明らかにする単著を出版し、少子高齢化のすすむ日本で裕福な高齢者向けの予算を削り、育児や若者の教育に予算を回すよう説得する論理の可能性を世に問うた。 現在の年金制度は裕福な高齢者に有利すぎる。有利すぎる社会保障制度を維持することが、その維持可能性を危険にさらし、逆に高齢者にもリスクが大きいことを示し、高齢者の利己心にも働きかける論理が必要である。 裕福な高齢者を説得するには、大学進学の平等化ではなく、少子高齢化が進む日本を支える担い手を作り出すことを福祉・教育政策の政策目的にすべきである。大学進学の平等化が政策目的では、彼らが税金を払うとは考えにくい。「父親が倒れても、お孫さんが大学に行けるよう、大学進学を平等化します。税金をもっと払ってください」と言われても、彼らは政府を信頼せず、税金を払わず、孫のために貯金するだろう。 彼らにも負担増を納得してもらうには、大学進学の平等化でなく、少子高齢化が進む日本社会を維持し高齢者のための医療・年金・介護等のシステムを合理的に機能させ続けることが政策目的だと位置づける必要がある。 だが、政府の「幼児教育の無償化」の3~5歳限定案は合理的でない。0~2歳児の貧困率が急増し、待機児童の8割以上が0~2歳である。教育機会の平等化効果が大きく、女性の就労促進・少子化対策にも有効な0~2歳児の「保育・就学前教育の無償化」がむしろ急務だ。3~5歳児だけの「幼児教育の無償化」を優先する政策が合理的だと、日本政府は国民に説明する気があるようにみえない。このままでは、日本政府が新たな負担増を求めようとしても、誰も負担増には応じようとはしないだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画には「高齢者予算を若い世代に回すよう、高齢者を説得する論理の構築、その受容信頼構造の明確化」と書いた。 単著の出版で、「高齢者予算を若い世代に回すよう、高齢者を説得する論理」をどう構築していくべきか、その方向性を明らかにすることができた。 また、その論理が受容されるためには、政策の合理性が明示され、論理が徹底されねばならないことも明らかにした。たとえば、スウェーデンでは1990年代に年金支給額が削減される一方で、就学前教育の充実が図られたが、それは「働ける存在」を作り出すためであった。1996年に首相に就任したヨーラン・ペーションは、施政方針演説で「スウェーデンは知識国家をめざす」と宣言した。この宣言で彼は、「生涯学習は失業に対する政府の政策の基盤となるべきだ。スウェーデンは高い能力を持って競争できなければならない。そのためには、就学前学校から大学まで、あらゆる教育機関で質を高めることが前提となる。基礎学校(日本の小中にあたる)の最初の重要な学年をよりよくすることに、就学前学校は貢献しなければならない」と述べた。同じ1996年に公的児童ケアの行政責任は社会省から教育省へ移管された。 ここでの政策目標は、生涯学習の基礎となる就学前学校での教育の質を高めることで、「失業しない存在」すなわち「働ける存在」を作り出すことにある。「すべての子ども」は、スウェーデンの将来を担う「働ける存在」にならなければならない。どのような家庭環境にあっても「すべての子ども」は就学前学校の教育を受け、将来できるだけ失業しない「働ける存在」になる必要がある。ここには大岡頼光, 2004,『なぜ老人を介護するのか』で指摘した「労働力の再生産のために福祉国家はある」という論理の徹底がみられる。
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今後の研究の推進方策 |
1995 年に高齢者の票の比率が世界最高だったスウェーデンが、1990年代の不況期でも若者向けの高等教育を拡大する予算を編成できたのはなぜかを明らかにする。 授業料が無償で奨学金が充実するスウェーデンでは、高等教育の拡大は、教育費負担を家族に頼らず公的に負担する「脱家族化」を更に進めることになる。不況期でも教育費負担のさらなる「脱家族化」が必要だという論理はどう作られたのか。特に、不況で他の予算を削りながらも、教育予算の大幅増を可能にした予算編成方法の特徴を明らかにする。 だが、スウェーデンの予算編成方法を明らかにするだけでは、日本の予算編成方法を改革することはできない。 よって、日本の予算編成方法の改革を試みた民主党の取り組みを分析した研究者にインタビューを行い、民主党の失敗の原因を明確化した上で、日本の予算編成方法の改革のあるべき方向性も探りたい。その上で、スウェーデンの予算編成方法の改革から学ぶべきポイントを明らかにし、スウェーデンの関係者へのインタビューに臨みたい。
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