本研究の目的は、音楽の場に生成する共同態を分析することを通じ、諸単位の多様性と統一性を両立させる《音楽的共同性》の原理を理論化することにある。研究を進めるなかで、諸単位の統一性を可能にするのはリズムの共有であるという構想を得たので、この構想をもとに研究を進めてきた。 今年度の調査研究では、音楽家にインタビューを実施し、彼ら/彼女らがリズムという現象をどのようなものとして理解し、またリズムの創造をつうじてどのような共同性のイメージを構築しているのかを分析した。必要な場合には、追加のインタビュー調査も実施した。注目されるのは、熟達した音楽家(複数)が、リズムを動的な円環の表象として把握し、また円環の表象を活用して他者にリズムの質的内容を伝達していることである。そこで、本研究では、円環のイメージがどのような共同性イメージへと接続するという点に着目して考察を深めた。 理論研究においては、音楽療法の理論を中心に考察を進めたが、そのなかで、音楽心理学の知見を社会学的考察に接続する必要があるという展望を得た。そこで、認知心理学の専門家から最新の研究情報を提供してもらいつつ、音楽心理学の諸研究を社会学的に読み込む作業を進めた。その結果、音楽家がリズムに関して語る円環のイメージを、より科学的な言語で説明することが可能になった。 思想研究に関しては、ドゥルーズ&ガタリの「リトルネロ」にかんする議論をリズム論として読み解く作業に取り組んだ。また、音楽による地域創生というテーマに関しては、兵庫県神河町と連携した学習プロジェクトを実践するなかで研究を進め、関連する研究成果として、「地域連携型アクティブラーニングの研究(2)――《神河プロジェクト2016》を事例として」(共著)を発表した。 以上の研究内容をふまえて、《音楽的共同性》を理論的にモデル化する作業に取り組んだ。
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