研究課題/領域番号 |
25590125
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
山中 茂樹 関西学院大学, 災害復興制度研究所, 教授 (30411797)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 原発避難 / 二地域居住 / セカンドタウン / 集団移住 / 地域アイデンティティ / 母村 / 地域自治区 |
研究概要 |
東京電力福島第1原発の事故で依然、多くの人たちが避難生活を強いられている。除染を進め、順次、帰還が国の方針だが、福島県内の非汚染地域に新都市をつくり、避難地域のセカンドタウンとして二地域居住を法的かつ都市経営のうえからも保障する制度提案を行うのが本研究の目的である。 初年度は研究会を立ち上げる一方、先行事例として、豪雨で村の4分の1が被害を受けた奈良県十津川村の2600人が、1889年、北海道の原野に入植して開いた新十津川村(現北海道樺戸郡新十津川町)を9月29日から10月3日にかけて現地調査した。驚いたことは、奈良出身者は、すでに人口の1割にも満たないにもかかわらず、町を挙げて奈良の十津川村を「母村」と呼び、北陸や四国をルーツとする人たちも母村をふるさとのように慈しんでいることだった。2011年9月の台風12号で母村が大きく傷ついたときは、一般町民から2000万円を超える義援金が集まっただけではなく、町は5000万円を支援金として特別に支出し、職員たちが応援に駆けつけた。町には明治時代の廃仏毀釈以来、十津川郷士が信仰した「出雲大社教」の分院が開設され、郷士たちが開墾の合間も屯田兵たちと竹刀を交わしたというエピソードが今に伝わる剣道が町技となっている。この二つが世紀を超える「地域アイデンティティ」を支える重要な要素であることを確信した。 10月30日には、2010年3月の合併で滋賀県近江八幡市に編入されたものの、旧町域に地域自治区が設けられた旧安土町を視察、合併特例法の基づくこの制度が福島のセカンドタウンに援用できないか調査した。 このほか、1954年3月のビキニ環礁における水爆実験で60年たった現在も故郷に戻れないマーシャル諸島ロンゲラップ共和国の人たちの研究を続けている研究者からディープヒアリングを行い、島の人たちのアイデンティティは何によって維持されているかを探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二地域居住に向けての政策・制度提案は、実現可能性の検討と選択肢の組み合わせにおける相互比較という問題はあるものの、ある程度、おおざっぱな枠組みの想定はできている。しかし、ふるさと疎開にあたって、地域のアイデンティティをいかに保持し、移植するかといった民俗学的仕掛けの開発は前例もなく、専門的に研究している機関や人も見あたらず、手を付ける前から相当、難航することを覚悟していた。 しかし、北海道・十津川町の現地調査、ロンゲラップ共和国の先行研究から比較的しっかりしたアイデンティティの具体的事例が明らかとなり、研究の先行きに道筋がついたと確信している。
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今後の研究の推進方策 |
一つは、二地域居住や集団移住を可能とする政策制度提案を具体化し、いくつか実現可能性のある案を選択的に提案することを考えている。この場合、二地域居住とは、集団で実施する場合と、個人で避難する場合と二通りを考えたい。 地域アイデンティティの移植については、現地、福島県で考えられている集団移住の取り組みと先行事例から浮かびあがったケースとを重ね合わせ、具体的に事象を発見することに努めるとともに、集団移住に地域として意思決定をする議員たちを対象にアンケートすることを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度に行う予定にしていた福島県相双地方の首脳陣アンケートが首長選挙が相次いだことや、自民党から復興加速化策が提示されたことなどにより、事態の推移を見守る必要が出たため。 双葉郡浪江、大熊、双葉、富岡4町について、集団移転の意思やセカンドタウンの考え方、地域アイデンティティの根源となる「誇りに思うこと」などについて議員を中心にアンケートや聞き取り調査を予定している。
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