研究実績の概要 |
9月に本研究の最終的なまとめのためスイスと英国で調査した。スイスでは再度ディグニタスに連絡を入れたが聞き取りはかなわなかった。しかし代表代理人のS.ルーリー氏からは丁寧な説明が得られた。ディグニタスでは自殺幇助依頼者数は漸増しているが、その理由として、帰属国の法では救済されない絶望感の中、危険を冒してもやってくる人々の究極の救済の場としてディグニタスを位置づける説明には納得できるものがあった。スイスでは現在、ディグニタスを含め8つの自殺幇助機関があり、全て民間の設立、運営であるがいずれも会員数は増加しているのも「最終の救済機関」としての認知度があがったからかもしれない。スイス/ドイツ語圏EXIT(1982年)では、現在直面している課題点などについて聞き取りをおこなった。課題点はオランダと同様、「精神的苦痛」のみの理由で安楽死を希望する人が年々漸増傾向にあること、さらに「認知症」と診断された会員の自己決定の判断にどう対応するのかという問題である。現在 EXITでは、後者はケースごとに判断して対応しているが、精神的苦痛だけの理由には応じない姿勢をとっている。次に英国でCAD(自殺幇助委員会),DID(尊厳死推進団体)での聞き取り調査を行った。とりわけDIDは活発に英国議会に「安楽死法」「尊厳死法」の成立を働きかける運動を展開しており、英国内でもこの動きに賛同する人々は増加している。一方、経済的な視座から延命治療の是非を考える試みも行われている。国立医療技術評価機構は医療技術についての費用対効果測定の考え方(財政的制限の中でどんな医療にどれくらい資源を投入すべきなのか)を示し議論を巻き起こしたが、有限な資源としての保険医療費の破綻を防ぎ健全な超高齢社会を見据える上で「延命治療」の選択の正しい認識は避けて通れない議論となりそうである。
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