本研究は、社会福祉協議会が実施する日常生活自立支援事業の意義と今日的な課題を、制度開始の経緯を遡り、とりわけ判断能力の不十分な人々の権利擁護の中核を成す自己決定の側面、並びに、社会福祉協議会が創設以来取り組んできたコミュニティワークの観点から、改めて問い直したものである。 最終年においては、これまでのヒアリング調査を総括し、①独自の取り組み②行政との駆け引き③本人の意向尊重と「最善の利益」④地域住民の関与:難しさと必要性⑤社協組織の特質⑥事業に内在する構造的矛盾⑦モノ言わぬ日本人⑧福祉専門職の危機というカテゴリーを抽出することができた。 また、地域性の異なる2県における社協の専門員にアンケート調査を行い、1.「金銭管理」機能の発揮と利用者支援の難しさ2.事業の財源確保に関する多様な見解3.当該事業の公共的役割と専門員の意識が浮き彫りになった。 また、共同研究を行ってきた橋本宏子神奈川大学名誉教授から、福祉契約を「制度契約」として解釈する可能性と本人中心支援組織への転換への期待、同じく、大矢野修龍谷大学教授より、地域に根差した政策主体へと変貌する社協の可能性等につき、貴重な提言もいただくことができ、研究により一層の深みを加えることができた。 このような研究の成果物として本研究の報告書を発行したが、全体を通じて、本事業を通じた利用者の「自己決定」支援に付随するデリケートな問題が累積し、本来の目的と異なる機能を求められ、狭間で苦悩する社協職員の姿が明らかになった。一方、社協が当該事業を実施する意義が必ずしも明確に描けない現実がある中で、改めて真のアドボカシーを実践していく必要性が明示された。 さらに、1.利用者ニーズに沿った事業の必要性2.近年注目される「意思決定支援」に関わる危惧3.地域住民との対話と協議においては、更なる課題が存在することが明らかになり、今後の課題としたい。
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