東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故が社会に及ぼした影響については、サステイナビリティ学などの学術的な観点からの真摯な検討が必要である。本研究は、ポスト震災社会のなかで人々がどのようにそのダメージから回復しようとしているのか、いくつかのフィールドワークを通した事例研究を行うと同時に、それらに基づき共同性と縁に着目した理論的検討も行うものである。社会心理学が基本概念とする「社会的動物としての人間」という見方を踏まえ、ポスト震災社会に生きる私たちの共同性と縁について、社会心理学の立場から問題提起を行う。私たちは縁ある人々との繋がりのなかで自己を回復し、あらたに「安全・安心社会」を紡ぎ出していくしかない。本研究は、得られた知見を踏まえ、その点にも積極的に言及していく。 3年目の最終年度(平成27年度)は、前年度に引き続き、NPO法人とみおか未来子どもネットワークが中心となって企画した「おせっぺとみおか」(富岡町次世代継承聞き書きプロジェクト=全町避難を強いられている福島県富岡町の年長者に対し、町出身の若者が聞き書きをする事業)にサポーターおよび講師の立場で関わり、その様子を観察・記録した。これは、もともと富岡町のなかで維持されてきた縁が、原発事故によって分断されてしまうかもしれない危機を克服し、その地域社会の共同性を世代を超えて回復しようと試みる、大変興味深い事業である。4人の年長者に問いかけ、その語りに耳を傾ける若者たちからは、まだその場には帰れない故郷との縁を確認する場ともなった。 また論文などのかたちでのまとめはできていないが、日本質的心理学会第12回大会(宮城教育大学)において、関連のシンポジウムで発表を行った。
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