研究課題/領域番号 |
25590161
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
針原 素子 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (80615667)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 甘え / 援助要請 / ソーシャル・サポート / 文化比較 / 日本人 / アメリカ人 / 迷惑 / 規範 |
研究概要 |
「甘え」は、日本人の精神構造を理解するための鍵概念として扱われてきたが、本研究では、日本人が「甘え」という言葉を使うのは、甘えによる依存関係を重視しているのではなく、人に迷惑をかけてはいけないという規範が存在するため、相手への依頼を当然のものと考えることができず、自己批判的に「甘え」と定義するためである、という仮説を立て、日米比較により検証することを目的とする。 まず、予備調査1として、日本人大学生を対象に、対人相互作用場面のシナリオを示し、相互作用を抑制するような規範が存在するかどうかを検討したところ、援助要請、援助提供のどちらとも、理想としてはもっと行いたいのだが、実際には行わないと回答することが分かった(アジア社会心理学会で発表)。 次に、予備調査2として、イギリスで作られた子供向けアニメ(友人からの援助要請を断れなかった登場人物が「No」と言うべきとの教訓で終わるストーリー)を日本人大学生に提示し、その反応を測定した。予測通り、日本人は、相手の迷惑を考えずに仕事を頼んだ友人の方が悪いと判断することが分かった(SPSP年次大会プレカンファレンス(文化心理学セクション)で発表)。 さらに、予備調査3として、18歳~59歳の日本人男女を対象に、どのような人が友人間での援助要請を気軽に行うのかを検討するオンラインアンケートを行った。その結果、相互協調的自己観を持つ人ほど、迷惑をかけてはいけないという考えから援助要請を行わないというプロセスと、相互協調的自己観を持つ人ほど、対人依存欲求が強く援助要請を行うという背反するプロセスが存在することが分かった(26年度日本心理学会で発表予定)。 また、次年度の調査のため、甘え行動刺激リストの作成(研究1)を行った。日本人大学生に、これまでに経験した援助要請行動を列挙してもらう自由回答質問紙を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アニメ動画に対する反応から援助要請と承諾に関する規範を調べる予備調査2と、甘え行動刺激リストの作成(研究1)は、25年度中に、日本人大学生とアメリカ人大学生の双方からデータを得る予定だった。しかし、アメリカでの研究協力者を見つけるのに予定よりも時間がかかったため、倫理申請手続きが間に合わず、日本人データのみしか得ることができなかった。 一方で、当初の予定にはなかった日本人の一般成人を対象とした予備調査3を行うことで、日本人に特徴的と言われる相互協調的自己観を持つ人ほど、他者に迷惑をかけたくないと思うために援助要請を行わないという仮説通りのプロセスと、反対に、相互協調的自己観を持つ人ほど、他者への依存欲求が強いために援助要請を行うというプロセスを見いだし、今後の研究に有用な示唆を得ることができた。 そのため、総合的に「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
25年度に取得することができなかった、予備調査2(アニメ動画に対する反応測定)と研究1(甘え行動刺激リスト作成)のアメリカデータについては、26年度初めに取得が完了する見込みであり、予備調査2の結果については、26年度のSPSP年次大会で発表予定である。 26年度は、研究1の日米データから、甘え行動刺激リストの選定、翻訳作業を行い、そのリストを用いて、日米大学生を対象にしたシナリオ実験(研究2)を行う。甘え行動を1つずつ提示し、①そのような行動を相手がとったらどう思うか、②自分がそのような行動をとったら相手がどう思うか、③自分だったらそのような行動をとると思うか、を尋ねることで、仮説を検討する。 当初は、日記法による甘え行動の日米比較(研究3)も26年度に行う予定であったが、アメリカの研究協力者にデータ取得の協力を頼む都合上、同時に2つのアメリカデータを取得するのが難しい。そこで、27年度に行う予定であった、日本人のみを対象にダイアドデータを取得する調査(研究4)を26年度に前倒しし、研究3を27年度に行う予定である。 研究4では、日本人大学生を主回答者とし、友人と家族1名ずつをネットワーク他者として選定してもらう。そして、そのネットワーク他者にも質問紙を送付し、それぞれに、相手に自分は甘えているか、相手は自分が甘えていると思っているか、相手は自分に甘えているかなどを聞くことで、2者間の認知のズレを検討する。 研究3では、日米大学生に、数日にわたって、その日に起きた援助要請行動・援助提供行動を記録してもらい、それらの行動が、親しくない人の間で考えると不適切なものかを評定してもらう。ここから、実際に経験している援助要請・提供行動はアメリカ人の方が多いが、本人が不適切と判断する行動(甘えとラベル付けする行動)は、日本人の方が多いかどうかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
予備調査2と研究1のアメリカ人データの取得が26年度に繰り越されたため、回答者や翻訳、コーディング作業に予定していた「謝金」の費目の支出が無くなった。しかし、アメリカの研究協力者を見つけることができたため、アメリカ人データは、次年度に大学のSubject poolを使って行うことができることになった。そのため、回答者の謝金は不要となり、次年度に大きく繰り越す必要はなくなった。その上で、予備調査2で得られた結果を研究発表し、アメリカでの研究協力者と打ち合わせをする目的で海外渡航が一度増えたため、「旅費」の費目について支出額が予定額を上回り、予備調査3において一般成人のデータを得るためにオンラインアンケートを行ったため、「その他」の費目について支出額が予定額を上回り、全体として、若干の次年度使用額が生じた。 次年度使用額に関しては、予備調査2、研究1をアメリカで行う上での翻訳者謝金として使用する。その他、26年度の当初からの予算については、「旅費」はSPSP年次大会での研究発表のため、「謝金」については、研究1の日米甘え行動リストのコーディング、並びに翻訳に、「その他」については「研究4」のダイアド調査の郵送料として主に使用する。
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