「甘え」は、日本人の精神構造を理解するための鍵概念として扱われてきたが、本研究では、日本人が「甘え」という言葉を使うのは、甘えによる依存関係を重視しているのではなく、人に迷惑をかけてはいけないという規範が存在するため、相手への依頼を当然のものと考えることができず、自己批判的に「甘え」と定義するためである、という仮説を立て、検証することを目的とした。 まず、昨年度に行った友人間、母子間のダイアド単位で行った調査データから、客観的な相手への依存度を統制した上で、相手の負担を重く見積もる人ほど、主観的に自分が相手によく甘えていると評価することを明らかにし、国際比較文化心理学会(IACCP)並びに東京大学社会心理学コロキウムで発表した。 次に、回答者が思い浮かべる「甘え」の内容を統一するため、「家族」または「親友」に「仕事を手伝ってもらう」または「相談にのってもらう」という2×2の4種類のシナリオを提示し、自分だったら頼むか、それを「甘え」と思うかなどを問うオンライン調査を行った。その結果、相手との関係を切ることができない安定的な関係だと思う人ほど、実際に頼むだろうし相手は受け入れてくれると予測するが、それを「甘え」と思う訳ではなく、相手に頼むことが不適切で相手に迷惑だと思う人ほど、それを「甘え」と思うということが分かった。この結果は平成29年度の国内学会にて発表予定である。 以上から、少なくとも自分の行動について述べる時、「甘え」という言葉は、自己批判的なラベルとして用いられることが明らかになった。
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